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【いまさらレビュー】映画:時の支配者【4K修復版】(1982年、フランス)

1980年代を代表する長編アニメーション映画『時の支配者』の4K修復版を見る機会があったので、改めて記録を残しておきたいと思います。
ルネ・ラルーとメビウスというフランスを代表する2大巨頭のコラボということで、歴史的にも大きな意味を持つ作品ですが、2023年に4K修復作業が完了しており、今回見たのはそのバージョンです。

おはなし

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

ストーリーの縦軸は2つ。少年ピエルのサバイバルと、救出に向かうジャファールらの冒険。この2つの線は音声のみでやり取りする「マイク」によりつながっている。

攻撃的なスズメバチの襲撃で両親を亡くしたピエルは、辺境惑星で孤立。マイクを通じてSOSを受け取ったジャファールらが救助に向かうものの、道のりは遠くいくつもの試練が待ち受ける。ジャファールは旧知のシルバードと合流するが、これが後に運命的であることがわかる。

マイク(実はシルバードやジャファールの恋人ベルの声)の助けを借り、いくつものピンチをすり抜ける素直な少年ピエル。一方、逃走した宇宙船の同乗者マトン王子を追ったジャファールに、大きなピンチが訪れる。思想を統一し人間を取り込もうとする恐ろしい生物に遭遇、2人とも囚われの身となる。

統一を拒否し破滅を選択したマトン王子。そのおかげで危機を脱したジャファールだが、またしてもピンチ到来。時間を操る時の支配者が起こした磁気嵐に巻き込まれる。難を逃れたものの、ジャファールはピエルの救助には向かえず、ピエルは別の人間に救助された。シルバードは磁気嵐の影響で命を落とす。

妖精たちの不思議な力により、シルバードが実は60年後のピエルだったことが判明。ジャファールたちは複雑な思いでシルバードの遺体を見送った。

ストーリーを彩るのはファンタジー感満載の惑星の景色、生き物、妖精たち。ピエルを和ませるシルバードやベルの歌声が彩りを添える。サスペンスフルな展開もどこか寓意に富んでおり、さまざまな楽しみを見いだせる作品だろう。

1982年ごろはファンタジー!

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鬼才メビウスといえば大友克洋氏と交流があったことでも知られる、バンドデシネ界の巨人。日本でも各方面に影響を及ぼした人物である。

一方、82年頃に日本で放映されていたテレビアニメというと、戦闘メカザブングル、六神合体ゴッドマーズ、超時空要塞マクロス、未来警察ウラシマン、太陽の子エステバンなどなど。子供が見るアニメでも人間性や宇宙の真理を語れることに気づき、ストーリー的に厚み・深みを増したころであろうか。

ロボットアニメ特有の「しきたり」が邪魔だけど、ザブングルはファンタジー要素に満ちているし、ウラシマンでは悪の総帥フューラーが実は主人公のリュウだったという設定も存在したようである。全部がメビウスが起源だったとは言わないが、どこかでつながっている気もする。

そういえば、宮崎駿『風の谷のナウシカ』の連載が始まるのは82年だ。世界観的にはむしろこちらが正統的な継承者かもしれない。驚くような造形に満ちた有機的な世界観、そこかしこに感じられる浮遊感、原色を避けた中間的な色合い。メビウスが生み出したものは様々な形で消化され、我々の血となり肉となっている。

時間を支配するとは?

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『時の支配者(Les Maîtres du temps)』(原作のタイトルは『L'Orphelin de Perdide(ペルディドのみなしご)』)はタイトルから伺えるように、テーマを時間に置き換えた。映画では誰が、どんな手を使って時間を支配するかは詳しく描かれない。そこは重要ではないのだ。異なる時間軸のどこかに接点ができるところに驚きと面白みがある。

ミヒャエル・エンデ『モモ』には時間貯蓄銀行が登場する。よそ様の時間を詐取する目的は理解不能だが、いずれにせよ時間を奪われた側には不幸がもたらされる。イライラ度合いはペルディドのスズメバチに象徴されようか。

結果として時の支配者のあおりを食ったピエルには、数奇な運命が待っている。ただこれは後のシルバードの姿からわかるように、ポジティブな出来事だ。救出後の60年は、振り返ると豊かな人生・生き方・時間であったに違いない。

そういえば、マイクを通じてピエルに優しく語りかけたのはベルやシルバード自身。もしかすると、ここにも重要な要素が隠されているのかもしれない。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

文字通り一筋縄では行かない非常に深みのある作品だ。機会があればぜひ、たくさんの方にご覧頂きたいと思う。

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