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【いまさらレビュー】映画:ジュリア(s)(フランス、2022年)

今回は、終始どこからか光が差している映像が印象的だったフランス映画、ジュリア(s)についての記録を残したいと思います。
監督・脚本はオリビエ・トレイナーで本作が長編映画初監督。ピアニストである主人公をブルーの瞳が素敵なルー・ドゥ・ラージュが表情豊かに(4人分?)演じています。アイデア一発では終わらないところにも好感が持てる作品です。

おはなし

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

主人公は女性ピアニストのジュリア。80歳となったジュリアが若い頃を回想するという体でストーリーが始まるが、描かれる人生はいくつにも枝分かれしており、その点が作品の最大の特徴となっている。まずはベルリンの壁崩壊の年1989年からスタート。

音楽学校の学生だったジュリアは友人とベルリン訪問を企む。まず第一の分岐点がベルリン行きを達成する/出発できない。その後も枝分かれは続き、本屋で男性に出会う/すれ違う、コンクールで優勝/落選、結婚する/独身でピアニストのアシスタント、交通事故に遭う/遭わない…幸福に満たされる時間があるかと思うと、どん底を味わう時間もある。

それぞれ枝分かれの先で接点ができる男性は、キレキレのビジネスマン、離婚歴ある病院の医師、音楽業界のエージェント、ベルリンで出会った男性、音楽学校時代の同級生などなど。どの男性との時間もハッピーとアンハッピーが交互に訪れる。どんな人生にも浮き沈みがある。

ラストは学校の合唱担当の教師をしていたジュリアの未来。教え子が成長しオーケストラの指揮者となっており、ジュリアの誕生日と過ごしてきた人生を音楽で祝福する。幸福感に包まれ、ストーリーを締めくくる。

映像はジュリアの表情を追ったアングルを多用。また全体に、どこからか光が差している画面が多く使われ、希望を象徴しているようでシャレている。

監督は『ピアノ調律師』でセザール賞短編賞受賞歴があるオリビエ・トレイナー(※トレネとの表記もある)。詳しい人物的な紹介は見つけることが出来なかったが、音楽には造詣が深い方なのかもしれない。崩壊するベルリンの壁前でのジュリアの演奏シーンは、素晴らしくカッコよかった。

ジャンヌ・モローのつむじ風

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

映画ジュリア(s)の原題は「Le tourbillon de la vie」、直訳すると“人生の渦”となるが、ジャンヌ・モローが歌う「つむじ風」の歌詞の印象的な一部としても知られている。モローを象徴する楽曲であり、フランソワ・トリュフォー監督『突然炎のごとく』の劇中歌である。

歌詞を少し紹介しよう。

彼女はオパールの瞳をしていた
それが私を魅了した
彼女の白い卵型の顔は
私にとって運命となる女(ファムファタル)のものだった

私たちは出会い 知り合った
互いを見失い 再会した
私たちはまた出会い 別れた
人生のつむじ風(Le tourbillon de la vie)の中で
」(※Lyricstranslate.com)

視点が男性から女性へと変化しているが、モローの「つむじ風」が物語のベースになっているのがおわかりいただけるかと思う。ジュリアを演じたルー・ドゥ・ラージュの魅力的な瞳は、ファムファタルのオパールの瞳だったわけだ。絶妙のキャスティングに納得

映画はさまざまなきっかけがジュリアの未来を左右するストーリー。男性との運命の出会い/別れもワンセットである。まさに偶然の積み重ね。どのジュリアが一番幸せだったかはわからない。ただそれも人生の一部、人生のつむじ風。後から振り返ってみれば大切な思い出だ。

フランス発の作品だけに、ちょっぴりシャレ(過ぎ?)ている気がしなくもないけど。(島倉千代子に連想がつながらなくてよかった笑 人生いろいろ、男もいろいろ〜)

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

些細な出来事が思わぬ方向へと分岐していくという面白さだけを追ってみてもいいが、女性視点のファムファタルというエッセンスを加えるとより楽しめる作品になるだろう。

ルー・ドゥ・ラージュは2023年、ウディ・アレン監督「Coup de chance」に出演した。今後もどんどん世界的に注目される女優になっていくのかもしれない。ジャンヌ・モローのように。

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