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【いまさらレビュー】映画:プロジェクト:ユリシーズ(ドイツ・スイス、2021年)

今回はドイツ発というちょっぴり意外なSF映画:プロジェクト:ユリシーズについて、記録しておきたいと思います。
“SFサバイバル”とか“SFアクション”といった何やらミスマッチな謳い文句が影響してか、評価が芳しくない同作ですが、先入観ゼロで鑑賞すると割にいい映画ではないかと思いました。監督はスイス出身のティム・フェールバウム、主人公のタフな女性をフランス出身のノラ・アルゼデネールが演じています。

おはなし

舞台は近未来、さまざまな災厄で様変わりした地球。地形・環境は大きく変化し、浅い海と深いもやに支配された世界である。数世代前、地球を捨てて惑星ケプラーへと移住したエリート層の末裔が主人公ブレイクだ。地球への帰還計画・ユリシーズ計画のため、彼女が地球に降り立ったところからストーリーは動き出す。

ポッドの故障のためハードランディングを余儀なくされ、帰還調査チームで生き残ったのはブレイクとタッカーだけ。なんとか調査を始めるがトラブル発生。地球には厳しい環境に適応し生き延びてきた人たちが存在しており、その襲撃を受けて囚われの身となる。

言葉は通じないものの、珍しい人間に興味を持ったマイラという少女と交流が成功。事態が改善したかに思えたが、別グループの襲撃を受け、マイラは連れ去られる。追うブレイクとマイラの母。武力突入を試みるマイラの母を制し、ブレイクは別グループの中枢への潜入を果たす。

実は別グループのリーダーは、ケプラーからの第一期調査団のギブソン。ブレイクの父とは同僚だった人物だ。また、地球の生き残りはマッド(泥の民)と呼ばれ、ギブソンらの計画に反対し反乱を起こしたこと、それを指揮したのがブレイクの父だったことが知らされる。ショックを受けるブレイク。

だが、次第に真実が見えてくる。女性・女の子を拉致するのは、ケプラーの人間を地球に呼び入れて子孫を残すため。ブレイクの父は生きて監禁されており、反乱は泥の民の独立性を守るため。ケプラー人の絶滅回避か、泥の民の純血か…決断を迫られるブレイク。そして、囚われた泥の民の子供たちを解放することを選択する。

ギブソンのケプラーへのデータ送信を止めようとするが一歩及ばず、送信は完了。計画を止めようとしたブレイクはギブソンとともに海に沈む。溺れかけたブレイクを救ったのはマイラの母だった。

ギブソンが面倒をみていた子供は実は、ブレイクとは異母兄弟だと知らされる。つまり、ケブラー人女性の生殖能力は復活していた。近い将来、ケブラー人が地球へと大挙押し寄せてくることを示唆して物語は終わる。

映像はほぼもやに包まれているか、水の中。多くの観客にあまりいい印象を与えなかった原因の一つでもあるが、未来の地球の風景としては、むしろ多くの“変化・困難”をイメージさせる。また、種の絶滅の危機だからいわば原種との交配もやむなしという考えは、ある意味残忍な科学的発想である。SF的なテーマとしてはどちらもアリだと思う。

「プロジェクト:ユリシーズ」の英語の原題は「Tides」。潮の干満を意味するが、転じて栄枯盛衰を指すこともある。

ちなみに、脚本家として日本人らしき「Mariko Minoguchi」というお名前の女性がいたのでオヤ?と思ったが、ドイツ出身の方で映画監督経験もあるらしい。監督デビュー作の『僕の終わり 君の始まり』(2019年)はドイツで高く評価された作品だそう。今後どんな作品で世界に羽ばたいていくのか非常に興味深い。

冷たい方程式

SFの古典ともいえる短編にトム・ゴドウィン「冷たい方程式」(1954年)がある。人命に関わる重要なミッションを持った1人乗り宇宙船に密航者がおり、さてどうするか…という内容。タイトルからもわかる通り、方程式に則った非情な結末で締めくくられる。つまりマイナス1。

母星を捨てた結果進化が行き詰まった亜種人類と、激しい環境の変化に耐えて絶滅を免れた原種人類…DNA的に融合が可能であるならば、長い目で見て人類絶滅を救う道は交配しかない。方程式的には選択の余地がない。“冷たい”けどね。

一方、結果として起きる生物学的問題や道義的な問題は一切無視。方程式で導かれる選択は果たしてこれで正しいのか?との問いかけは「冷たい方程式」「プロジェクト〜」に共通するテーマである。

環境変化に適応できない種は絶滅する運命にあるが、火を手にした人類だけは違うはず。マッチの火はそんな根拠のない希望の象徴なのだろう。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

目新しい大仕掛けが存在しない映像だし、スピード感や感情を揺さぶるドラマ性も希薄。ラストも希望に満ちた明るい未来を予感させるものではない。一般的な評価が振るわないのは、ある意味うなずける。

一方、シンプルにSFとして観るならば、見どころに欠く作品では決してない。たまには人類について、未来にどんな世界をバトンタッチすべきかについて考えてみるのも悪くない。

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