ラストマイル考察＆感想（⑧犯人まりかの標的は？）ネタバレあり

⑧犯人まりかの標的は？
これは最初の鑑賞では、五十嵐とデリファス社を標的に、復讐と山崎佑の真相追及が目的だと思っていた。
しかし筧まりかの標的は、誰かや会社ではなかったのではないか。
標的は社会全体。
それを裏付けるのは、アメリカでエレナに会った際のまりかの言葉、まりかは「私のせいならば自ら贖います。」と、立ち去ろうとするエレナに追いすがるように言います。
それを受けてエレナは、そんな無責任に出来もしない事をと思ってそうな呆れたような表情で、「どうやって？できないでしょう！？」とだけ言います。
それを受けたまりかは「私のせいじゃなかったら、世界は贖ってくれるの？」と言い放つ。
世界が罪を贖うというその真意は、その場ではエレナに伝わることなく、２人の会話は終わる。

まりかは、五十嵐に罪を償わせたいとも、デリファス社の罪を問いたいとも、言っていない。
自らへの贖いと、世界は贖ってくれるのか！と問うている。

きっと、まりかは５年前の山崎事件から、アメリカでエレナに会う４年前までの間に、行動し考え調べる中で、誰か一人が悪い訳でも、どこか１社が悪い訳でもない、社会全体の問題だと感じたのでしょう。

社会のシステム、仕組み、社会全員の考え方、それらすべてに問題があると感じたから、アメリカ本社にまで出向いて本社社員と話したかったのではないか。全体のシステムや仕組みを変えてほしかったからではないだろうか。

利便性や安価のみを求めるユーザー、それに過剰に応えようとする企業、大企業はその利便性と安価追及のため、社員や下請け企業に無理を強いる。
無理を強いられた社員：山崎佑は自殺に追い込まれ、
下請け企業ドライバー：やっちゃんは安く叩かれた配送料を甘んじて受け入れ、無理をし過ぎて病気で亡くなる。
それでも、下請け企業も大企業も、企業社員も誰も変わらない。
商品を購入する消費者エンドユーザーも、何も変わらない。

何事もなかったように、変わらず利便性や安価を追い求め、社会全体の歪みを生む一員になっていく。
企業も企業社員も下請け従業員もエンドユーザーも、誰もかも、社会全員の歪みが標的だったから、誰もが標的となりダメージを受けうる爆弾事件を仕掛けた。
まりか自らも社会全体の歪みを生んできた一員。
そして山崎を飛び降り事件へ追いやった張本人かも知れない、けれど山崎を植物状態にさせた根本原因は今後も分かりそうにもない、そう思ったまりかは自らへの贖いを爆弾事件の始まりとしたのだろう。
そして、デリファス社、五十嵐、運送業者、エンドユーザー、社会全体を標的として、世界に贖わせようとした。
だから、爆発事件の最後まで見届ける必要もなかったのだろう。
自らの贖い、世界が贖ってくれるのか。目的はその二つだった。
まずは、自らを犠牲にして爆発を起こす。
こうして爆発事件をスタートさせる。
その時にすでにデリファス社西武蔵野の倉庫内には、残り11個の爆弾を仕掛けている。
残り11個の爆弾が、配送を止めるなりして、爆発しないまま爆弾時間が終わったとしても、
デリファス社や警察が配送を止めきらずに、西武蔵野の倉庫内や、配送会社の倉庫内、配送ドライバー、ラストユーザー、誰かの元で爆弾が爆発したとしても、
それは社会全体が決めたこと。
まりかはそう考えたのではないか。

まりかは、世界に贖いを求め、どの程度の贖いが必要かは世界が決めること、と考えたのではないか。
デリファス社社員が植物状態となっても、何一つ明るみにならず、何一つ変わらない社会。
だとしたら、デリファス社への爆発事件を起こせば、社会は動くのか人命を大切にする方向に舵をきるのか？
筧まりかが犯人だと判明すれば、デリファス社は山崎佑の事件を調べ、労働条件改善など動き出すのか？
それとも、爆発事件をなかったかのように配送を止めることもなく、爆発被害を大きくするのか？
爆弾事件後は？それでも何一つ変わらず、社会は歪みを抱えたまま、元通り動き出すのか？
残り11個の爆弾の何個爆発すれば、社会は変わろうとするのか？
それはまりか自身がコントロールすることではなく、世界が社会が決めることだと考えたのではないだろうか。
まりか自身は、そんな社会にはもう何一つ希望もなくなっていたのではないか。私は自ら贖います。その後の世界がどう贖うかは、残された世界の皆が決めるべきことだと。
そんな覚悟と諦めを持って、見上げた根性で自らへの贖いを行い、世界への贖いを問うたのではないか。

「そんな根性ならいらない」
筧まりかには、直接そう言ってくれる人はいなかったのだろうか。そんな誰かがいれば、きっと爆発事件を起こす事はなかっただろう。そう思えてならない。