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クルパカ!⑪ vol.456
昼間、この男の話が出た。
およそ、人に己の力点を主張しない男、つか、それを出来ない男。
この男は損している。
でも、損している自分を甘んじているところも確かにある。
不器用で、男として極めて純で、年下の俺を実直に立ててくれる。
俺はこれだけで充分だと思っている。
だから俺はこの男を守ろうと、あるとき決意した。
人を大事にしたいという気持ちに、およそ大それた契機はいらない。
ボーナスで潤う、何年か前の12月初旬のこと。
俺はこの男とサシで飲みに行く。
何てったって、この男との飲みは俺の心の安らぎであるし、俺自身が無駄な装いを剥ぎ取る瞬間でもある。
二人が重ねてきた一見無駄で一見大事な時間は、いつも俺らを何事もなかったかのように、忌憚ないそして気のおけない飲みに没入させていく。
でも今日ばかりはいつもの他愛もない二人を演出するためでなく、この男に未来の危険を予知させるために、俺らの時間を作ったというのが正しいあり方である。
この男が来春、一体どうなってしまうのか。
それが心配で居ても立っても居られなくなる俺。
よっぽどこの男のことが好きなのか?
そんな想い以上に、この男が俺の前から消えてなくなるのが耐えられない自分を何度も意識している。
この男の背中を見送って、この男のやり遂げた清々しさに俺なりに感動して、最後の餞けを、ちゃんとした形で送りたい。
でも、訪れてしまったこの状況。
何で?
俺がこのエリアで力を発揮し得るポジションになっているのに、この男のことを浮上させることが出来ないのか?
助けられる人間が、濁流に飲み込まれていく愛する人を見逃していく。
そんな例えに呼応するのではないか。
その飲み会で、俺は、この男に向ける正直な想いを俺なりの言葉にした。
何年か前に、ある会議で心ない集中砲火を受けたことがあった。
その時、俺に援護射撃をしてくれる奇特な人間は誰一人としていなかった。
この男を除いては。
この男は、孤立無援にして四面楚歌の俺を勇気ある言葉でこう救ってくれた。
『自分は◯◯さんについていく!』と。
この時のことを今回の飲み会で、俺はこの男に素直に語る。
俺の中で、このクルパカ感がはっきりと明確な輪郭を表した瞬間であった。
泣いた。
大粒ではないが、二人とも泣いた。
大粒の涙なんか流せなくなるほど、俺ら二人の環境は厳しすぎて、そして悲しすぎて。
年甲斐もなく、ほぼ初老の男たち二人は、お互いの言葉に期せずして、感極まる結果になった。
決して美辞麗句などではなかった。
あと3ヶ月あまり。
俺はこの男のために何が出来るか?
俺は真剣に考えなければならない。(終)