クルパカ!⑭ vol.535
この男の出処進退の予想は依然として厳しい。
にもかかわらず、この男の動きにさほどの変化は見られない。
よく数人で飲むことがあるが、この男が興味を示す内容はほとんど下ネタ以外になく、感極まると周りの人間を噛んでは悩ます。
噛まれた人間は歯型が付くほどで、それなりに痛い。
この男の仕事ぶりは実に粗末である。
部下に下知というものをしない。
というよりか、下知するための言葉を持たない。
また持とうとする気持ちがないし、当然そのモチベもない。
毎月の戦略会議ではメモも取らないし、時折居眠りもするし、咄嗟の質問に反射も出来ない。
当然である。
頭を働かそうとしないのである。
瞬時に言葉を継げられる訳がない。
この男は何が楽しみで人生を生きてるんだろう。
俺はエリアのリーダーとして、この男に苦言を呈することしきり。
面前で軽く罵倒する場面もあるが、相応に裏面でフォローし、改心させるための飲み会で気を使う。
俺よりも5歳も年上で、これほど手の掛かる男もいないであろう。
先日のことである。
この男がある士気高揚会という飲み会で、この辺りのエリアの人事権を有する広域エリアマネージャーに直談判したのである。
というよりか、俺に言わせれば酒に任せて気が大きくなったところで、道理に合わないことをベラベラ喋っただけであって、広域エリアマネージャーの心に響いたとは到底思えない。
逆にマイナス効果をもたらしてはいないかと、とても不安になる。
とはいえ、この男の進退は今のこの状況においても刻々と決まりつつある。
この男、例の士気高揚会で、広域エリアマネージャーの前で、冗談めかしく「数字が悪くエリアの足を引っ張って申し訳ございません!」と、あたかも会社トップが部下の不祥事のために記者会見で謝罪するがごとくの謝罪をしたが、広域エリアマネージャーはそれを苦々しく眺めていた。
俺が何度も何度も言ってるのに、未だに戦略会議で寝るこの男の空気の読めなさ。
この男は死ぬまで空気が読めずに没していくのかもしれない。
不幸なのか幸せなのか、俺は全く分からなくなる。(終)