男惚れする格好いい男たち④ vol.104
俺がこれまで積み上げた人生や読書感からくる、格好いい人間像について語ってみたい。
4回目は胤舜と武蔵。
武蔵の剣を飛躍的に向上させたライバルが胤舜。
屠殺・撲殺を主とする武蔵の剣に体系的な軸組を入魂せしめたのが、胤舜との勝負前夜である。
それまでの胤舜には自分の命を脅かすほどの敵がいなかった。
それこそ、胤舜の最大にして最後の課題。
心・技・体。
胤舜の技・体にほとんど死角はない。
天才。それ故に心を磨き抜く試練に事欠く。
あらゆる状況を、ときに自分の命を業火に投げ出すような状況を乗り越えてこそ、心は充実をみる。
胤舜にもそれが分かっているが、天才ゆえに相手の命のやり取りにしかならない。
そんな胤舜の前に武蔵が現れた。
自分の命と相手の命を互いの目の前にさらけ出し、それをむき出しに摑み合い奪い合う。
そんな二人。
男と男、剣と剣。
魂を剥き出しにした野性がぶつかり合う。
胤栄との修行の中で、武蔵は自分の中に天地に呼応する何かを見つけて、五体そのものを飛躍的に進化させる。
だが、胤舜も天下無双のプライドは揺るがない。
「鬼をも恐れぬ完全無欠な強さまであと僅かなところまで来たはず。この俺に足りないものは命のやり取り。死の淵を垣間見るほどの闘いの経験。己の命を投げ出さなければ、超えられぬほどの巨大な敵。いいぞ、この充実。もはや俺の知る武蔵ではない。こいつが巨大な敵ならば喜んでこれを迎え入れろ。この闘いののち、天地に俺に勝るものなし!」
自信過剰な男たちの威信をかけた闘いである。
その鍔迫り合いに、圧倒的威圧で武蔵が勝つ。
これ以降、柳生四天王、石舟斎、吉岡清十郎へと闘いの火蓋は切って落とされる。
「この武蔵が、剣に己の存在そのものを込めるように。俺の命もこのやりに乗せてみたい。命のやり取り、そこまで出来ればもはやこの胤舜、鬼にすら勝てる!」
胤舜の天下無双への野望が武蔵の劇的な飛躍に潰える。
それこそ、武蔵の融通無碍、面目躍如である。(終)