「気持ちは石巻とともに」 井上俊次さん古里で錦読響・創立60年演奏会 47年ぶり公演 1200人喝采
日本トップレベルのオーケストラ「読売日本交響楽団」(読響)の創立60周年を記念した石巻特別演奏会が9日、マルホンまきあーとテラスで開かれた。石巻市での公演は昭和50年以来47年ぶり。地元出身で読響首席ファゴット奏者の井上俊次さん(58)=千葉県松戸市=も出演し、計76人のメンバーとともに魂を揺さぶる圧巻の演奏を披露。ホールを埋め尽くした約1200人の聴衆は総立ちで喝采を送った。
特別客演指揮者に小林研一郎さん、ピアノに角野隼斗さんを迎え、前半はラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18」、後半にチャイコフスキーの「交響曲第5番ホ短調作品64」を演奏。管弦楽の時に柔和、時に躍動感あふれる珠玉の音色が響き渡った。
演奏終了後、マイクを握った小林さんが「皆さんにご紹介したい人がいます」と井上さんの名を挙げ、会場からは一際大きな拍手が沸き起こった。古里に錦を飾った井上さんは少し照れた表情を浮かべながら、感謝を込めて一礼した。
井上さんの実家は同市中央にあった老舗楽器店「サルコヤ」。経営者だった故・井上晃雄さんの次男で、幼少期から楽器に親しみ、13歳の時にファゴットを始めた。東京芸術大学音楽学部卒業後、NHK交響楽団(=N響・平成2―17年在籍)を経て18年から読響に所属。N響時代などに石巻市民会館で2度ステージに立ったが、読響首席奏者としてまきあーとの大ホールで演奏したのは今回が初めて。
演奏後の取材で井上さんは「定年まであと1年半というタイミングで石巻の皆の前で演奏できたことはこの上ない幸せ。コロナ禍で演奏ができなかったり、スランプに陥ったりと苦難もあったが、全てが報われた。客も皆温かく、大きな喝采をくれて誇らしかった」と感慨深げに話した。
初めて立ったまきあーとの大ホールについても「音の響きが素晴らしい。石巻の文化発展の拠点になる」と太鼓判。震災から復興していく地域への思いも語り、「音楽に限らず、芸術文化から得られる心の幸せは、日々の生活や人間関係、仕事の活力につながる。それはさまざまな余暇活動やスポーツも一緒。『コロナ禍なのに芸術文化なんて』という声もあるが、今こそ、その力が必要。私も気持ちは石巻とともにある。皆さんの前でまた演奏ができればうれしい」と話した。【山口紘史】
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