桜井美奈「塀の中の美容室」
桜井美奈さんの「塀の中の美容室」を読んだ。
「塀の中」とは、つまり刑務所の中。
物語の舞台は、女子刑務所の中にある美容室。
そこで美容師として働くのは、刑務所内の美容講習を受けた受刑者だ。
一般の客も利用できるというその美容室を舞台に、さまざまさ人生を歩む女性たちがそこで髪を切ってもらい、新たな人生を踏み出す。
「髪は女の命」なんて言葉はもう古いかもしれないけど、少なからず女性にとって、髪を切るという行為は特別な意味を持つ。
単にわずらわしくなって切る場合もあるが、何かの節目や気持ちを新たにしたいときに切ることも多い。
これが普通の美容室の話だったら、この小説はさまざまな女性の人生を描いたただの短編集に過ぎなかったかもしれない。
けれど、舞台が女子刑務所内の美容室、それも受刑者が髪を切るというのだからただごとではない。
見えてくるのは、髪を切ってもらった女性たちの変化だけでなく、髪を切る受刑者の女性にも彼女の人生があるということ。
罪を犯すまでの人生があり、罪を犯した後の人生があり、刑務所に入ってからの人生があり、刑務所を出てからの人生がある。
決して犯罪は許されることではないけれど、この小説に登場する塀の中の美容師は、必死に自分と向き合い、闘い、前に進もうとする。
もしも塀の中の美容室が実在したとしても利用する勇気があるかは分からない。
でも、久しぶりに髪型を変えてみようかなという気にさせられる作品だった。