伊藤 響

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伊藤 響

ヘルシンキ大学の学生。https://sites.google.com/view/hibiki-ito/home 興味:教育哲学、差分プライバシー、決定性公理、学習分析の自己言及性、フィンランド語のliitepartikkeli

マガジン

  • フィンランド再び(仮題)

    フィンランドの大学生活が始まりました。日々の記録です。

  • フィンランド高校生活記

    高3の7ヶ月間の記録

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雑談会をしています

私にとって、教育学の楽しさは、いろいろな専門知や経験を持った人と繋がれることです。一見教育とは関係なく、自分の専門ともかけ離れているような人とも、教育学という共通の土台に立つことで、一緒に議論することができます。そもそも私の専門が教育学ではありません。どなたでも、ぜひ一度お越しください。 このオンライン教育学研究会(仮)は、2年以上前から日本の学生と続けています。日本語で、月に一回、飲み物片手にZOOM雑談会をします。放課後のおしゃべりくらいの感覚です。最近は月に一回、読書

    • 所有

      機械学習はデータを「記憶」してしまうことがある。例えば、発達障害者向けのAI算数ドリルを作るとする。そのためには実際に発達障害と診断された生徒の学習データを利用する。そして、完成したAIドリルを公開したとする。そうすると、この公開されたAIの「記憶」を利用して、ある特定の学習者のデータが使用されたかを推定することができる。つまり、誰が学習データを提供したか、言い換えれば特定の生徒が発達障害の診断を受けているかどうかが、間接的に公開されてしまう恐れがある。 研究インターンの初

      • 人生のレール

        膿瘍のときと同じで下半身麻酔だと思っていたが、人生初の全身麻酔で深く眠ることになった。痔ろうの手術は30分もかからなかったようで、1時間半も寝ていたら完了していた。起こされるとパンとヨーグルトを用意してくれた。コーヒーはいかがと聞かれたが、そんな気分ではない。手術後にコーヒーが提供されるのはフィンランドだから?水とパンだけいただいて、病気休暇と手術後の注意点などの説明を受けた。それが終わると排尿。手術した部分の痛みを我慢して頑張ってトイレまでちょびちょび歩く。前回の手術後は、

        • 歯磨き

          肛門周辺膿瘍の手術をしたのは6月。1ヶ月の病気休暇。計画していた夏のインターンもやめて、秋学期の授業を減らした。時間がたっぷりできて、パソコンに向かって思う存分やりたいことがた。おかげさまで、研究活動も順調すぎるくらいだ。 しかし、膿瘍だったところが今度は痔ろうになった。日が短くなるのと同時に、見事に気持ちも沈んでゆく。太陽は神様だ。 いま振り返れば2023年後半はいままでの人生でいちばん憂鬱な時期だった。肛門が痛いと何もできない。気晴らしに友達と一杯、ができない。思い切

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        記事

          教育学の雑談会と読書会をゆるく毎月やっています。よければSlackからご参加ください。オンラインです。 詳細はhttps://kyouikugaku.wordpress.com/から。

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          会話の色

          学生食堂はいくつかあるが、元老院広場前の中央棟にある学食がいちばんおいしい。だから、午後に授業がない日は、理学部のあるクンプラキャンパスで午前中の授業が終わったあと、中央棟のある市街地中心部へと向かう。授業で考えたことを整理しながらバスに10分ほど揺られる。 でも今日は零下10度。できるだけ移動はしたくない。だから、しかたなく数学科とコンピュータ科学科のある建物で学食を食べることにした。12時の学生食堂は、フィンランド語と英語と、それからイタリアかスペインのラテン系、中国語

          アクラシア

          古典的なマズローの五段階欲求説は、その名前が示唆するように、下位の欲求が上位の欲求の必要条件になっているようなニュアンスがある。だとすると、必ずしもこのモデルが正しいとは考えにくい。例えば、自己実現の欲求が生じるために、必ずしも承認欲求が満たされている必要はないのではないか。しかしともあれ、最下位に生理的欲求、その次に安全の欲求が置かれているのは納得できるし、本質をついているように思う。 欲張って修士課程の授業を取りながら、卒業研究の広がりには収拾がつかず、自分から連絡を取

          アクラシア

          ヘルシンキのカモメ

          ヘルシンキの夕暮れ。カモメたちはフランス語の鼻母音を力いっぱい発音したような鳴き声で会話し、太陽はジョギング中のヘルシンキ市民を応援している。夏至から1ヶ月経ち、フィンランドの森は、蚊が減りベリーが増えてきた。 ヘルシンキ大学に学士論文を提出して、いま卒業の審査が行われている。 学士論文は「The Early Development of Axiom of Determinacy」というタイトル。ゲーム理論から生まれた概念である「決定性」が現代集合論においてどのようにして

          ヘルシンキのカモメ

          ヘルシンキで歩いて

          大きめの定理を証明してひと段落すると、しばらくその余韻に浸るために数学から離れることがある。Springerの黄色い教科書を一旦閉じてフィンランド語の宿題に移ってみたが、もう集中力が残っていなかったので帰ることにした。大学図書館からは歩いて20分くらいなのだが、最近は寒いし地面のコンディションも悪いから地下鉄に乗ってそれを14分くらいに縮めることが多い。 ところが、図書館から地下鉄の駅まで降りるエレベータが並んでいた。東京にいればこのくらいなんてことないのに、フィンランドだ

          ヘルシンキで歩いて

          書くこと

          「優れた数学者は紙とペンを使わない」という言葉をもらったのはもう1年前のことであるが、これをいまだにしばしば考える。 数学の本や論文は数式や記号をたくさん用いる。例えば、$${X}$$をある条件を満たす自然数の集合とすると、その後その論文ではその集合のことを「$${X}$$」という記号で表す。さらに、別のある条件を満たす自然数の集合を$${Y}$$とする。それから、$${X}$$の中に入っているものと$${Y}$$の中に入っているものが同じだったら $$ X=Y $$

          書くこと

          自転

          冬休みを日本で過ごした。滅多に帰ってこれないからと遊び呆けていたから、卒業研究の進捗に焦りがあった。それで、フィンランドに戻ってからはしばらく、朝7時に起きて夜11時に寝るまで、しっかり「朝から晩まで」数学だけをしていた。授業に出席するのも1週間に2コマで、それ以外は本当に数学しかしなかった。 ところで、しばらくnoteも書いていなかった去年の後半だが、寝る時間が惜しいほど忙しかったため、いろいろ実験をしていた。1週間に1回徹夜をしてみたり、睡眠時間を6時間に揃えてみたり、

          数学について

          気づけば、今読んでいる数学書にはもう数字が出てこない。出てきても、0か1か2か、せいぜい3である。そもそも0とは何か、1とは何か。1+1=2と同じ要領で3421+6579=10000が計算できるのは感覚的にわかる。我々のやっている計算にはいくつかルールがあって、それを言語化して並べてみると、実はこのルールはあのルールがあれば必要ないな、そのルールはつまりそれとそれを一般化したものだな、といった具合にルールを絞っていける。そうやって厳選された、普段我々がやっている計算だったり数

          数学について

          季刊教育法 214号

          MacBookの充電器を失くして、しばらく大学から借りているノートパソコンを使っいた。慣れないLinuxで、日本語のインプットのインストールもなぜか制限されている。それでこの文章がなかなか書けずにいたところだ。たまにどうしてもその場で書き留めておきたいことがあるとスマホを使うが、基本的に小さい画面で長い文章を書くというのは気が乗らない。結局友人に教えてもらってインストール制限が解除できたが、同時に新しい充電器も届いたので、久しぶりにMacBookを使う。 今日の本題は、『季

          季刊教育法 214号

          ご近所付き合い

          バルコニーに出ると海の香りがする、そんな都心部に引っ越した。島国とて東京の比較的自然豊かな内陸部で生まれ育ったので、海とヘルシンキ中央駅の近い生活には興奮を隠すことができず、ヘルシンキに来た観光客が写真を通ってまわるようなところを毎日自転車で大学の図書館へ向かう、そんな日々が続いている。 初めての一人暮らしを1年終えて、気の知れた友人2人と3人暮らしを始めた。一人一部屋、キッチンとバスルームとバルコニーは共有。フィンランドで「学生寮」と言ったらこれが典型的なものである。同じ

          ご近所付き合い

          夏休み数学ばかりでnoteが滞っています。 今日の試験でバチェラーの数学の単位は全て揃った(はず)なので、卒業研究と、新しく認知科学の副専攻を始めます。 人間が数学をするとはどういうことか、考えすぎてしまいました。

          夏休み数学ばかりでnoteが滞っています。 今日の試験でバチェラーの数学の単位は全て揃った(はず)なので、卒業研究と、新しく認知科学の副専攻を始めます。 人間が数学をするとはどういうことか、考えすぎてしまいました。

          空間把握

          高校留学の時に日本からのお土産でけん玉を持ってきた。これが意外と評判が良かったのでまた持ってきた。 もちろんフィンランドにけん玉なんてなく、初めての人にやらせるとなかなか盛り上がる。でも、これは経験的な印象であるが、フィンランド人はけん玉の習得が早いような気がずっとしている。これは、数学と空間把握の関係につながるものである。 近年の研究で、空間的思考と数学的思考には共通した認知処理が働いていることが指摘されている。その説明として、例えば数学の文章問題を解くとき、数学的論理

          空間把握