タクミ派?ノブ派?いつまでも語りたい『NANA―ナナ―』の魅力【全文無料】
いくつになっても、私たちはずっと『NANA』の話で盛り上がれる。
「『美味しんぼ』で例えてもわからないですよ、若い世代はまだあの時生まれてないですよ(笑)」なんて年上に突っ込みたくなること結構あるけど、私たちもずっと『NANA』の話してない?」
同世代の働く女性とそんな雑談をして、『NANA』の連載がスタートしてから20年以上が経っていることに気がつきました。うん、無限にできるね。
雪国から東京に向かう新幹線の中で出会った、同じ名前・同い年の女性。彼氏を追って、東京で同棲をするために実家から出てきた小松奈々(以下、ハチ)と、バンドで夢を掴むためにギターケースと小さな荷物だけ持って上京する大崎ナナ(以下、ナナ)。東京に向かう理由も性格も、すべてが異なるふたりを軸にした物語です。
2009年から休載中ですが、数年に一度は読み返したくなる作品。私は10代から30代の今までの人生をNANAと歩んでいるのですが、読み返すたびに自分自身のキャリアやライフステージが変わっていることもあり、物語やキャラクターに抱く感情も、ゆるやかに変化します。
平成と令和で印象が変わった「およめさんになりたい」ハチの生き方
私は小学生の頃、矢沢あいさんの名作『ご近所物語』に出会い、若いうちから明確にやりたい仕事を決めて夢を突き進む同作の主人公・実果子の生き方に憧れていました。まだ専業主婦が多かった時代です。「結局自分軸で生きるんだ。そうしているうちに、恋も夢も友達も全部できるんだ!」なんて、小学生ながら、女の人生のバイブルにしておりました。
その実果子に比べると、NANAの主人公のひとり、ハチはあまりにも男に流されるというか……手に職もなく、せっかく就職できた出版社での仕事もやる気がなく、すぐ人を好きになり、またコロッと他の人に……。正直、全然共感できない。憧れられない。連載当時はまだ就業経験もない10代でしたが、イライラしたことをはっきりと覚えています。
しかし、30代・令和になった今読み返すと、ハチの印象がガラッと変わりました。愛溢れる家庭に育ち、女友達に説教をされながらも結局世話をやいてもらえるくらいの関係構築力。初対面の人との距離の縮め方も、天真爛漫さとしたたかさのバランス感も、後天的に育むのは難しいですよ。ナナの声やスター性と同じくらい、ハチも圧倒的に光るものを持っている。
そもそもハチにイラついていた頃は、私だって仕事も恋も妊娠も未経験。幸い修羅場はまだありませんが、ある程度人生の浮き沈みを体験してからページをめくってみると、ハチの肝の座り方、他人への甘え方、これはもうどんな職能よりも強いのでは? なんて思うんです。ふわふわ流されるのも、柔軟だから。
無計画にお金を使うのも「しっかりしなよ!」とハチに苛立つポイントだったんですが、10代20代の頃にお気に入りだった服や住んでいた部屋って、一生モノなんです。手放しても、ずっと自分の記憶で生き続ける。
「あの時、本当はこうしたかった」の後悔は意外と引きずります。また、将来寝たきりになって好きなものに触れられなくなったとしても、頭に浮かぶ思い出のコマは、カラフルなほうがいい。うっすら「老い」が近づいてくる年齢となった今、若い頃から自分の欲望に正直なハチを尊敬するようになりました。
飲み会もタクミ派かノブ派かで手堅く楽しめがち
「結局レイラは何をしたいのか、大人になった今もわからない」とか「幸子はよく『あざとい女』の象徴として槍玉にあげられるけど、結局章司が最悪」「わかる、むしろ幸子は手のうちを明かしているし、爽快だよ」「でも章司はまだ20代でしょ?そんなもんだよ。背負わせる方が酷だよ」「シンちゃんに関してはどう考えても周りの大人がダメだし、シンちゃんを含むすべての子どもたちを守れる社会を作るのが我々大人の責任だ」など語っているうちに、恋愛において不快な行動や、人付き合いにおいて大切にするものがわかります。方向性擦り合わせを実際の人間関係への言及なくできがち。
とくに「結局誰が好き?」「タクミ派?ノブ派?どっち?」は鉄板ネタです。そして30代になってから、周囲では圧倒的にヤスの株が急上昇。そして、働く女性が付き合う相手として社会的リスクがあまりにも大きいからか、レン・シン派は流石に見かけなくなりました(小沢あや調べ)。
ちなみに私は「誰派?」トークではあまり名前があがりませんが、トラネスのドラマー・ナオキ派です。組織内でもナオキのバランスは人として尊敬できます。仲間たちと人生をかけてバンド(仕事)をやるし、要所要所ではちゃんと手を差し伸べるけれど、過度に依存をしない。
コミュニティに対してゼロか100かでジャッジしてしまうこと、ありませんか? でも、ナオキにはそれがないんです。トラネスやブラストの地元コミュを大切にしているけど、コンプラ的に危ういところにはいない。匙加減すごくないですか? 圧倒的にナオキです。
ちなみに、Twitterでは指原莉乃さんも「大人になった上でNANA読んで誰が好き?(一生この会話できるよね)私はノブです」とPOSTされていました。すかさず宮脇咲良さんも「一生毎回最初から読める五年に一回くらいのペースで最初から読んじゃう」「ちなみに結局私はたくみです」とリプライ。ちなみに、かまいたちの濱家さんは「ノブです」とのこと。あっちのノブの顔が浮かんでしまいました。
「知り合い」から「友達」になれるかな? のタイミングで、みんなNANAの話をしていきましょう。NANAをきっかけに、作ろう。自分たちが主人公の友情物語を……!
(2022年 LINE Articleの小沢あや漫画レビュー連載より掲載)
【ポッドキャスト『働く女と◯◯と。』でもNANA語りをしています】
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