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「言葉」を設計しよう、組織の「文化」を作るために

「言葉」が好きです。
 新しい言葉に出会えたら、お昼ごはん食べなくてもいいくらい。

「言葉」にまつわるあれこれも好きです。
 文学だったり、言語学だったり、哲学だったり、数学や自然科学だったり。

 さて、言葉についてあれこれ語りたいところですが、その前に組織づくりの話をしましょう。昨年末から「組織」についてあれやこれやと考えていました。脳を捻ったり叩いたり伸ばしたり。

 そうして見つけた組織の「形」については、また別のところで書いてみたいと思います。今回のテーマは、どのような形の組織であっても必要となるもの。それは「文化」です。

 文化というと自然発生的に形成されるイメージを持つ人もいるかもしれませんが、とくに企業においては、それを意図的に作るということはよく行われていることだと思います。

 エリック・シュミットらによる『How Google Works』から引用しますね。

スマート・クリエイティブはリストの一番上に文化を持ってくる。実力を発揮するには、どんな環境で働くかが重要だとわかっているからだ。新しい会社やプロジェクトを始めるとき、検討すべき一番大切な項目が文化であるのはこのためである。

How Google Works

だから企業を立ち上げるときに、最初にどんな文化をつくりたいか考え、明確にしておくほうが賢明だ。 

How Google Works


 そうだ文化、作ろう。

 京都に行くくらいのノリで言ってみましたが、文化ってどうやって作ればいいのだろう?
 そんな問いかけの中で、僕の「言葉」好きが発動したのです。文化を作るためには「言葉」を設計すれば良い。

「文化」の定義についてはなんだか難しいことになりそうなので、いったん気にしないことにします。なんとなくみんなが「文化」と言ってるものが「文化」なんじゃねーの?(言葉を大切にしない発言)

 定義を知らなくても文化は作れます。たとえば、異なる文化を持つグループ間の差を考えてみましょう。圧倒的に違うのが「言葉」だと思いませんか。言葉好きが結論ありきで語ってますが。

 使う言葉の違いによって、考え方やものの見方に違いが出ます。この順番が大切。そして、考え方やものの見方が違えば、振る舞いも変わります。こっちは逆の順番があっても良し。

 ◇◇◇◇

 たいへん長くなりましたが、ここからが本題です。本当はもう組織とか文化とかどうでもいいんです。ここまで書いておいて放り投げるスタイル。

 言葉によって世界の見え方が変わるんだということを話したい。ただ、話したいだけ。結果として「言葉」を設計することで「文化」を作れるんじゃないかという予感を持ってもらえたら嬉しいです。

 社内向けに共有したスライドの1ページです。詰め込みすぎてフォントサイズが小さい。

 ひとつずつ見ていきましょう。

「他人と違う何かを語りたければ、他人と違った言葉で語れ」

F・スコット・フィッツジェラルド(小説家)

 これはもう意気込みみたいなものです。残りは順不同なのですが、これだけは最初に持ってきたかった。

 フィッツジェラルドがこう言っていたと村上春樹が言っていますが、村上春樹のことだから本当なのかどうかはわかりません。深刻なハルキ不信。

 小説を書くときだけではなく、組織においても他の組織との差別化を図るのであれば彼らとは違った言葉を使うと良いのだろうという気がしますね。


ものが先にあって、それに名が付けられたのではない。名を与えることで、私たちにとって必要なものが、クリアに見えてくるのだ。

フェルディナン・ド・ソシュール(言語学者、構造主義の原点)

 ソシュールがそう発言したということではなくて、その思想の一部を要約したものです。しかし、この要約は正確ではなくて、実際には世界の「切り取り方」について言及していたと認識しています。(例えば、日本語だと「水」「湯」という切り取り方をするけれど、英語だと一括りに “water” と切り取っていますね)

 僕がこの要約を選択したのは、組織内のコミュニケーションの中で抽象的な概念に名前をつけることでメンバーは同じものを見ることができるようになるという点を強調したかったからです。 


言語はその話者の世界観の形成に関与する

言語的相対論、サピア=ウォーフの仮説

 個人が仕様する言語によって個人の思想が影響を受けるという理論です。仮説ではありますが。Wikipedia を見ると前述のソシュールの名前も出てくるように、「構造主義」の文脈の中の考え方であるようです。

 Ruby(プログラミング言語)の生みの親であるまつもとゆきひろ氏が10年ほど前に「サピア=ウォーフの仮説」について言及しています。なぜプログラミング言語の開発者が?プログラミング言語とプログラマーの思考については後述しますね。


「ヨシュアツリーの原則」

ロビン・ウィリアムズ『ノンデザイナーズ・デザインブック

 みんな大好き『ノンデザイナーズ・デザインブック』の冒頭に出てきます。

 筆者は図書館でヨシュアツリーという見知らぬ木の存在を知りますが、その帰り道にこの木がたくさん生えているのを目にします。「ものごとは名前が付くことで意識できるようになる」というエピソードです。

 本書ではデザインの原則に名前をつけることによって、それを意識できるようにしようというコンセプトとなっていたと記憶しています。(現在、手元になくて確認できませんが)

 組織においては、文化として取り入れたい概念に名前をつけることで、メンバーがそれらを意識できるようになるのではないかと思っています。


「プログラミング言語は単なる技術ではなく、プログラマーがそれを道具として思考するものだからだ 」

ポール・グレアム『普通のやつらの上を行け

ハッカーと画家』に含まれるエッセイのひとつです。ポール・グレアムというとスタートアップのアクセラレーターのイメージでしょうか?しかし、かつてはLispという「最もパワフルな」プログラミング言語を使ってYahoo!Storeの前身を作ったプログラマーでした。

 Lispの場合は強力なマクロ機能を持っています。Lispがイメージしづらいなら、例えば、高階関数をサポートしている言語とそうでない言語をイメージしてみましょう。どちらの言語を利用するかでプログラマーの思考は違ってくるような気がしませんか?


  ユビキタス言語

DDD: domain-driven design

 みんな大好きDDD(ドメイン駆動開発)の文脈で登場します。

 雑にいうと、チームの共通言語を構築しましょうということです。丁寧に説明すると「ドメインモデルに基づいて〜」といった説明が入りますが、ここでは省略します。

 ここまでの文章を読んでいただくと、「ユビキタス言語」の重要性も理解できるのではないかと思います。


「さらに興味深いのは、〈ヘプタポッドB〉はわたしのものの考えかたを変えていくという事実だった」

テッド・チャン『あなたの人生の物語

 最後に、SFの名著(だと聞いている)『あなたの人生の物語』から。

「〈ヘプタポッドB〉」というのはヘプタポッドという宇宙人の使う書き言葉(書法体系、図形のイメージかな)です。ネタバレを最小限にして書くと、時間の認識の仕方が地球人と違うヘプタポッドは〈ヘプタポッドB〉という書法を使っています。地球の言語学者はその書法を学習することで逆にヘプタポッド的な思考を行えるようになり…という物語です。

 言語が思考に影響を与える例としてここに並べてみました。

 ◇◇◇◇

 ここまで読んでみると、どうでしょうか。「言葉」によって「思考」や「世界観」、そして「文化」が作られるという予感がしてきませんか?「言葉」を設計する重要性についても伝わる材料となっているのではないかと思います。

 このような感じで「言葉」好きが組織について考えたりしているわけですが、じゃあ実際にやってみようと思うと、自分の無力さが毛細血管にまで染み渡るのを感じずにはいられません。

 僕らの組織はこれから形作られていきます。一緒に「言葉」や「文化」、そして「組織」を作っていける人と出会えるのを楽しみにしています。

 ◇◇◇◇

 おまけです。

 いろんな文化圏での世界の切り取り方をパラパラと眺めたい時には、『翻訳できない世界のことば』がおすすめです。その感情、その情景を表す言葉があるのか!気軽に読める絵本です。

 もっと深みにハマりたい人は、ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」について調べてみるのはいかがでしょう。最近読んだ本の中で説明してあって、僕ももっと詳しく知りたいと思っているところです。おすすめの本があったら教えてください。(易しいやつ頼む)

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宮崎ひび
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