喫茶みるく ♯1フラ子はいつもフラフラだ
あたしの名はフラ子。本名はちがうよ。あだ名なの。細い体で、いつもフラフラしている。気持ちも、考えもいつもフラフラしている。だから、フラ子って呼ばれている。細い体のことはしょうがない、生まれついたもので変えられない。でも、気持ちや考えがフラフラなのはどうしてだろう。あたしは困る。こんな自分が好きじゃない。どうにかしたいと思う。そんな風にフラフラさまよっていて、足元を見ないでずうっと歩いていたら、マンホールの穴の中に落っこちてしまった。幸い、尻もちをついたところは大きな柔らかいクッションになっていて怪我はなかったけど。マンホールの入り口のフタは閉じてしまっていて、辺りを見渡すとオレンジ色の灯りにともされた看板がみえた。
「喫茶みるくはこちら。本日、占い師ウーロン 占い中」
あたしはその喫茶店に入ってみることにした。扉をひらくと、古いジャズの女の人の歌声が流れていて、「いらっしゃい」と、メガネをかけてフワフワの長い髪をした女主人があたしを覗きこんだ。
「誰かが落ちてきた音がしたの。あなただったの?大丈夫?怪我はなかった?」
「はい、クッションがあったので」
「時々いるの、穴から落ちてくる人が。クッションを設置しておいてよかったわ」
「好きな席にどうぞ。2階もあるのよ。メニューはホットミルクしかないんだけど、いいかしら?」
あたしは、「はい」、と小さな声でうなずいて、きょろきょろよろ店内を見渡した。どの席がいいだろう。人があまりいないところ…窓側の隅っこの席に座ることにした。
窓といっても、真っ暗でなにもみえない窓。
女主人がホットミルクをいれて、机においた。あたしは、それをひとくち飲む…すると、悲しい気持ちがじわじわと胸にこみ上げてきて、涙がポロポロ流れて止まらなくなった。ポケットのハンカチを出して涙を拭くけれど、それはすぐにびしょ濡れになってしまった。
「このティッシュ使ってください」肩をポンと叩かれて、顔を上げると、髪の毛を二つ団子にした、中国の服を着た女の人がティッシュを差し出していた。
あたしは、「あぁ、ありがとうございます」と言って、ティッシュを受け取るとまた涙が流れはじめた。
女主人も様子を見に来て、「大丈夫?」といいながら私の背中をなでた。「感情の掃除がはじまったのね、ごめんなさい、このミルクはそういう作用があって…」
「あたしの飲んだミルクには毒でも入っていたんですか…」とあたしは泣きながら言う。
「ちがうの、あなたの中の毒を出すミルクなの。大丈夫、今出せる毒は、いま出しておきましょう」
私の中の毒って何よ?
「でも、あなたラッキーよ。今日は占い師のウーロンが来ているんだもの。せっかくだから話をきいてもらうといいわ」
中国服の女性が、占い師のウーロン。
「私でよければ話ききます」
「でも、高いでしょ?あたし、お金ないし」
「無料。ここのサービスはお金かからないの。私、あなたの話ききたい」
30分ほど経って、涙が止まり、気持ちが落ちついたので、あたしはウーロンの占いを受けることにした。 つづく