【くら詩note】さみしがり屋
ほしいものは今
何ひとつありません
どうしても
ひとつだけっていうのなら
今すぐこのてのひらに
そのてのひらをかさねてください
君の裏通りにある
ずっと前から
閉ざされていた内輪の窓は
もうすぐひといきれで
あたためられてゆくでしょう
さみしがり屋の君を
僕はいつも探していました
あかるいふりをして
言わずのかげを隠すから
すぐに辿りつける角を
なんどもなんども
曲がりそびれていたのです
さみしがり屋の君の空は
かきあつめるだけかきあつめた
まばらの星のかけらばかりで
本当の君を知ろうと
ひき寄せるその前に
ざわめく朝に隠れてしまうのです
いきごとの本心の奥の奥に
ひっそりと掛けられた
か細いさみしがり屋の表札は
ほんの少しだけ傾いていました
息をするようにちかづいて
僕はそこにあるとびらに
しずかにノックをしたいと
かねがね思っていたのです
さみしがり屋の君の
部屋の中は空っぽで
何ひとつありませんでした
誰もが気を引きそうな
流行りの空をかかげるイーゼルは
もうとっくの昔にスペアをなくして
再び手にする余力もありません
ただっぴろい無機質の
スチールの棚のかたすみに
見つけるばかり
うわべだけの繋がり
大勢の中の孤独に
震えていた頃に
置き忘れたままの
壊れた月の真っ青なまぼろし
さみしがり屋の君の
凍てついた夜の髪をなでたら
ゆっくりゆっくりと
空は輪を描き始めたのです
咳をひとつするだけでも
不安だった夜に
つつんでほしかった
現実の黄色い月のひかりが
窓の向こうの星たちは
今にも崩れそうだけれど
ありのままに瞬いていました
ほしいものは他に
何もありません
曲がりくねった
裏通りの奥にいた
さびしがり屋の君
かじかんだそのてのひらを
今すぐここにください
孤独とはちがう
何ひとつない
ありのままの場所から見えます
僕たちのあいだへと昇ってきます
いままでの真夜中とはちがう
あかるい月の姿が
現実の空で微笑んでいます