「地下」にもぐるとは
ずっと「ものづくり」への渇望がつづいています。
でも、気づきました。私、つくっていました。
朝ご飯をたべ終えて、さあ仕事(いまは充電中なので読書とか執筆とかですが)と思うわけですが、何となく座って仕事する気分じゃない。
そして、じゃあ焼き菓子でも作ろう!となるわけです。
毎週のようにスコーンを「つくって」います。しかも、米粉なので原材料を工夫しながら、オリジナルレシピを追求しています。どうして、こうなったのかわかりませんが(BBCの「ブリティッシュべイクオフ」の影響はあります)、スコーンを「つくる」ことに執着している自分を発見しました。
いずれカフェを開いた時にレシピを見ないで、スコーンを作ったらカッコよくないですか・・・。
さて、話しは文芸創作の方へ。
いま気になっているのが「クリエイティブ・ライティング」のこと。
学校で授業をして、いやな気分になるのは生徒から「正解」を求められることです。基本的に正解って、つまらない。そこで思考が停止してしまうから。
どの科目でも「答え」じゃなくて、その答えにいたる「プロセス」が大切なのです。「どうして、そうなるの?」という。これが学びの楽しみなのに。
問題は、与えられてきた「枠組み」にしばられているということ。
実際は私が使っている「ことば」「日本語」にしても、ある種の「枠組み」があって、その「中」で日々生活しています。これは仕方ないです。
でも、考え方とか世界観といった「枠組み」は、外枠があいまいで、広げたり、ずらしたりができそうに感じます。本当は境界ってグラデーションで、ぼんやりしているのでは(性とか民族とか…)。
そして、枠組みから脱出するヒントは「文学」の中にひそんでいるのです。
「クリエイティブ・ライティング」というワードで図書館検索をかけてみたら、これまでよく読んだ内田樹の『街場の文体論』が出てきました(英語の文献はけっこうあるけど、日本語のは少ない)。この本の内容は彼の最終講義「クリエイティブ・ライティング」がもとになっています(内田樹『街場の文体論』文春文庫、2016年)。
読んでいくと相変わらず話題は多岐に及び、フランス哲学を敷衍しながら、面白い話が展開されています。でも、何か私が求めている内容とは違っていました。
やはり「評論」なのかなと。おそらく、この講義を聴いた学生さんも、すぐに文芸創作ができるようにはならないように感じます。
でもヒントになることもあります。
それは、作家や翻訳家はよく「地下にもぐっている」のではないか、ということです。
おそらく村上春樹ファンであれば、気づかれていると思うのですが、彼は「文章を書くことは自分の内側に潜っていくことだ」と書いています。作品の中でも、「地下室」「暗闇」の場面がよく登場しますが、作家自身の創作の仕方としても、「地面に穴を掘って水脈に突き当たる」ということをしているようです。
小川洋子さんや梨木香歩さんの創作のプロセスがとても気になっているのですが、そこでも「地下にもぐる」というような感覚に触れていました(「天にのぼる」ではない…)。
そして、地下室のさらに下にある「手つかずの鉱脈」の存在を実感できた時、創作は一気に動き出すということのようです。
どうして創作のネタは「地下」にあるのでしょう。「地下」とは一体なんのメタファーなのかな。
私もよくわからないのですが、「地下」とは、自分の内側のあるらしい。ちょうど水面下の氷河のように自分では普段意識できていない、とても大きなところ(比喩が地下じゃない…)。
地下深くもぐって出会うのは自分。でも、それは「複数」の自分の中の、まったく知らなかった自分、はじめて出会う自分なのかもしれない。
旅に出ると、今まで経験したことのない出会いや発見があります。よくクリエイティブな仕事をする人は旅に出て、新しい発想を手にしています。
「地下」に潜るのも「旅」のようなものなのかも。
旅は、必ず戻ってきます。その時、旧い「枠組み」の外枠ははずされているのです。こうして、新しい「枠組み」がつくられるプロセスが始まるのかもしれません。
作家や詩人によってつくられていく、未知の「枠組み」(「世界観」)を明瞭なことばで説明することはできないでしょう。それは小説とか詩というかたちでしか表現できないと思います。
「クリエイティブ・ライティング」を学ぶという話ですが、やはり簡単ではないですね。
「じゃあ、地下に行ってきます!」とはならない。それは簡単ではない。
まずは、たくさん小説や詩を読むということでしょう。ことばを理解するのではなく、ことばにならなかった、言語化されなかった「空白」「余白」を味わうということです。それが楽しい。「味わう」ことは、自分の中で創作が始まっていくということ。
あと、余裕があれば旅に出ることですね。
創作の旅はつづく。
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