初対面は独特の擦り傷
このご時世で仕事にならないので
6月から派遣社員として短期でデータ入力の仕事をはじめた。
外で働く仕事は5年ぶり。
大手企業で、細かな配慮が行き届いていて週数回の出社だが…楽しい。
言われたことをただ繰り返す単純作業。
そしてお金をもらう。
そんな時期があってもたまには良い。
そして広いオフィスではじめましての女性たち10人近くと手分けしてデータ入力をする訳だが、
ここで初対面に、ある独特の擦り傷が生じる。
自分や他の人のアイデンティティが初対面用にリニューアルされ、友人にも振る舞ったことない装いを出して印象をよくしようとする一方で、
知らない人同士で、いきなり力を合わせることになるので、相手の些細な行動に動揺したり、訝しがったり、時に相手を慮らないリアクションを無意識にとったりして、他愛ない摩擦が擦れ傷を生むのだ。
そしてこの感覚は相手の人となりに慣れてくると柔和されていく。
そこでも癒えない傷ができるとしたら、それがその人にとっての苦手な人ということなのだろう。
この小さな出来事は、相手がどんな人か分からないゆえの不安、新しい環境への期待とナーバス、始めたばかりの作業への意気込みから生じる熱量によるものだ。
この時期に相手の些細な印象に不穏を感じても、一週間や二週間たつとあの悩みはなんだったのだろうと、クスリと、笑ける。
小さな悪魔が私の視界を曇らせる魔法をかけて、嫌がらせをしたのではないかと、ひょいと背後を振り返ってみるが
もちろんそんなものはいやしない。
このこじれた心境になんていう名前がついているのか、
わたし風に言えば、初対面は独特の擦り傷をともなうといえる。
そんなわけで久しぶりに初対面の方々と仕事をし始め見えない擦り傷を目撃する私だか、
人より少しだけ臆病な面があるので、
3週間目の今も、未だに薄くなってきたその小さな悪魔と格闘しながら
データ入力をこつこつしている。