もうひとりの自分と対話する
ヒトの一生は対話とコミュニケーションの連続と言えます。
ヒトが、まだ母親のお腹の中にいる時から、対話とコミュニケーションは始まっています。
お腹の中の赤ちゃんは、妊娠20週頃から耳が聞こえはじめ、まもなく、感情が芽生え、声を発することもできるように体の機能は発達しています。
母親は、「お腹をなでる」「歌ってあげる」「話しかける」を通じ、自然とお腹の赤ちゃんとのつながりを深めるためのコミュニケーションを始め、同時に赤ちゃんもそれに反応します。
赤ちゃんは母親のお腹の中から出ると早速、様々な他者との関わりを持ちはじめます。
家族中心のコミュニケーションから言葉を覚え、外部のヒト達(他者)との接触から様々なことを経験し学んでいきます。
幼年期から思春期にかけて、他者に加え、自分との対話も始まります。
これが脳と心の発達に対し、他者とのコミュニケーションと同等、ときにはそれ以上に重要です。
ヒトはこの後、長らく、自分の中の「もうひとりの自分とのつきあい」を続けることになるのです。
インターネット、スマホ、SNSが発達した現代は、他者との対話とコミュニケーションの手段が多様化し、複雑化します。
同時に、「もうひとりの自分とのつきあい」に充分な時間を取ることが難しくなります。
勿論、他者とのコミュニケーションは大事ですが、日常的な自分との対話も、心のバランス感覚を維持するための不可欠な要素です。
トップアスリートは、「もうひとりの自分とのつきあい」を通じ、自分のコンディション、フォーム、メンタルの状態などを客観視することに優れています。これは、一流の経営者、ビジネスパーソンも同様です。
ヒトは社会との接点を持つ限り、様々な出来事に直面し、喜怒哀楽に左右され、自己の客観視が容易にできづらくなります。
そのためには、常に現実に直面した自分とは別な「もうひとりの自分」を持つことが必要です。
他者との良好なコミュニケーションのためには、知性・教養・ユーモアのセンス・明快さ・抑制力・品格・ちょっとした哲学性・客観的なもの見方が必要となります。
「もうひとりの自分とのつきあい」も全く同様で、常に自分を磨き、トレーニングすることで、何か困難に直面した際の自分にとっての頼りになる「もうひとりの自分」が確立するのです。
「もうひとりの自分との対話」の場面は、ヒトによって様々なパターンがあり、それぞれの向き合い方があるでしょう。
朝のコーヒータイム、散歩、通勤時間、エクササイズの時、好きな音楽を聴きながら、バスタイム、創作活動のとき…。
他者とは違い、日常のどんなときでもアクセス可能です。
「もうひとりの自分」が正常に機能しない場合、奢りや慢心、過剰な自信喪失、自己嫌悪、怒り、判断の誤り、理性の欠落、時には誤った倫理観をともなう行為すら犯してしまうケースに至ります。
窮地に陥ったとき、慢心になりがちなとき、感情が乱れたとき、何か重要な決断に迫られたとき、多忙なときこそ、「もうひとりの自分との対話」を試みる必要がありそうです。
けっきょく、「もうひとりの自分」があなたの人生の一番の教師なのです。