【感覚と言葉】語彙の数は感覚の鋭さを表す
うめがさね、はねず、ざくろ、しゃくどう、べにひわ、あかね、あけ、えんじ。これらの共通点がわかるだろうか。これらはどれも赤系の色を表す言葉である。赤に限らず、日本の伝統色は実に種類が多い。なぜ日本では色を表す言葉がこれほど多いのかを考えてみたが、それは日本人の「分解能」が高いから、という結論に落ち着いた。分解能とは言い換えれば識別能力である。「この赤とあの赤は似ているけどよく見ると別の色。だからそれぞれに名前をつけよう」。これで2つの名前の誕生である。そうやって色を表す言葉はどんどん増えていったのだ。
虹が何色に見えるかは国によって異なるそうだ。日本では「赤橙黄緑青藍紫」の7色に見えると言われているが、国によってはそれが5色だったり3色だったりするらしい。もちろんどの国でも虹は同じように見えているのだが、それを何種類の色として認識し、表現するかは異なる。
感覚が鋭ければ、色や味やにおいの微妙な違いがわかる。おいしい出汁の味がわかれば料理に奥行きが出るし、色を使いこなすことができれば絵も衣服もニュアンスに富んだものを創り出せる。違いがわかるから語彙も増える。このように感覚の鋭さと語彙の数には密接な関係があるのだ。
何を見ても食べても「カワイイ」「ヤバい」「キモい」などのわずかな形容詞に集約される若者言葉が行き過ぎると、せっかくの日本人の鋭い感覚が鈍化してしまわないかと心配になる。長い歴史と豊かな感性に育まれた日本語の表現力の多様さを守っていきたいものだ。
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