投球障害肘~動的安定性と尺骨神経~
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■はじめに
野球選手の障害の中で多くは肩肘関節に多いですが、
一般的に肘関節に対する治療の多くは
とすることが多いと思います。
もちろん、私もその意見に賛成です。
全身の機能が原因で、短軸しか動かない肘関節に屈曲伸展軸以外の動きが加わることで障害に至るということが多くはありますし、
障害予防としての観点でも非常に重要です。
全身的に介入し、肘関節に少しでも負荷を少なくし、
もう次にケガをしないようにということです。
しかし、
中には局所的な機能低下が原因で
投球障害肘になっている選手もいる!と考えています!
全身の機能のみが原因だとしたら、
今まで肘なんて一度も痛くなったことのない、ピンピンした選手が一球のエピソードで内側部痛や内側側副靭帯損傷にいきなりなる!ということが考えにくいからです。
(もちろんその場合もありますが。。。)
ですので、
全身的な評価治療がもちろん重要だと考えた上で
しっかりと局所のことについても学んでいく必要があるかと思います。
その一助になれば幸いです。
投球障害肘とは
投球障害肘(Thrower's Elbow)は、野球やソフトボールなど、繰り返し投球動作を行うスポーツ選手に多く見られる障害です。
いわゆる肘が痛くて投げられない選手のことすべてを指します。
特に、肘関節への過度な負担が原因で発生し、靱帯、軟骨、骨、神経などさまざまな組織に影響を及ぼします。
代表的な病態としては、図の通りに挙げられます。
症状として、肘の痛み、可動域の制限、さらには筋力低下が挙げられます。
成長期の選手では、骨端線の損傷(リトルリーガーズエルボー)や離断性骨軟骨炎が多く見られます。
一方で成人選手では内側側副靱帯(UCL)の損傷や尺骨神経障害が問題になるケースが増えます。
今回は、UCL損傷の原因となる内側の動的安定性についてと、尺骨神経障害について記載します。
動的安定性とは
肘関節における安定性とは、
外反ストレスに対して抗する力とすることができます。
安定性が低下すると、肘関節の内側裂隙が開き、靭帯損傷や尺骨神経障害が生じます。
エコーで観察するとこのように見えます。
動揺性ありと定義されるのは、左右差が3mm以上ある場合です。
投球においては、MERやBRに外反ストレスが強く働きます。
『静的安定化』とは、肘の内側の靭帯のことを指し、自ら収縮できない組織が内側の関節を守ることを言います。
しかし、内側の靭帯の破断強度は、32Nmまでであり、
投球中の内側靭帯への負荷は34Nmであります。
上記のストレスをそのまま受けると、1球で肘の靭帯は壊れてしまいます。
そこで、『動的安定性』が重要になっていきます。
「動的安定性」とは、肘を動かす筋肉や腱が協調的に働くことで、投球中の負荷に耐え、関節を安定させる機能を指します。
特に、前腕屈筋群や回内筋群の働きが、肘の内側を保護し、内側側副靱帯(UCL)の補助的な役割を果たします。
投球時、肘には極めて高いストレスがかかり、特にリリース時にはUCLや筋肉の協調動作が重要になります。
動的安定性が低下すると、関節構造への負担が増大し、靱帯損傷や神経障害につながるリスクが高まります。
そのため、筋力や柔軟性の向上、動作解析による適切なフォーム修正も重要です。
局所的な内側の動的安定性の筋肉としては、
先行研究では、
・浅指屈筋
・円回内筋
・上腕筋
が言われています。
いくつかの動的安定性に関する研究がありますが、そのほとんどが前腕回内屈筋群に関するものです。
では、他の筋はどうでしょうか?
我々の研究では、以下のような結果になりました。
|我々の行った内側動的安定性の研究結果
肘関節の内側裂隙間距離がどの筋肉を収縮させたら狭くなるかを見た研究です。
結果としては、以下の通りです。
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【C-I Baseballトレーナーのトレーナーマニュアル】 投球障害肩・肘、腰痛、捻挫、肉離れ、下肢障害など野球におけるケガの関りを専門…
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