シンコペーションの作り方
かっこいい音楽にはシンコペーションが欠かせませんよね。
でも「アクセントをずらす」なんて言われても良く分からないという人もいると思います。
ここではシンプルにシンコペーションを理解する方法を説明します。
シンコペーションのないノーマルな状態
まず、シンコペーションを作る前の状態を考えておきましょう。
小節や拍を「枠」によって理解すると分かりやすいです。
小節の枠を次のようなものと考えます。
すると、2拍子は次のようなものになりますね。
4拍子は次のようになります。
このように、ノーマルな状態というのは、大きい枠が小さい枠へと次々に分割されていくような構造を持っていることがわかります。
これを音符のグループで示すと次のようになります。
大きいグループの中に小さいグループが入れ子状に収まっています。これが拍節構造のノーマルな状態です。
シンコペーションを枠で表す
これに対してシンコペーションとはどういう状態かというと次のような状態になります。
赤い枠のために、きれいな入れ子構造が乱れてしまっています。
このような赤い枠を、長い音符やアクセントによって感じさせることによって、シンコペーションの感覚が生じます。
シンコペーションを説明する時よく使われるやり方は、弱拍にアクセントを付けることと、強拍の音を直前の弱拍とつなげることです。これらの違いは、上記の赤い枠を感じさせるための方法の違いです。
シンコペーションの「ズレ」の感覚
ただし、これではまだ説明は十分ではありません。
「アクセントのズレ」と言われるのは、シンコペーションが「何かからのズレ」であると感じられるからだと思います。
つまり、赤い枠で示した「ズレた枠」は、「何かをズラしたもの」なのではないでしょうか?
そして「ズレ」には「前へのズレ」と「後ろへのズレ」の2通りの場合がありえます。
実はシンコペーションは、「前にズラしたもの」と「後ろにズラしたもの」の区別が可能です。この2つは性質が異なる別々のものです。この2つについてそれぞれ説明していきましょう。
1つ目のタイプは前(先行側)にズラしたもの(「食う」タイプ)
「食う」と言われるシンコペーションの感覚は、このタイプのシンコペーションで感じられます。つまり、本来持続しているはずの枠が、早めに現れた次の枠によって食い取られて途切れてしまいます。
ポピュラー音楽でベースがしばしば小節の終わりに出す次の譜例のような形は、このタイプのシンコペーションです。
このタイプのシンコペーションは、タイで繋がれた音を分離するとアナクルーシス(弱起(*))と全く同じものになります。次の譜例の8分音符のG音は次の小節に所属します。
(*アナクルーシスは、日本語では弱起と言われることがあります。しかし「弱起」という言葉を曲の冒頭にしか使わないものと理解している方も多いと思います。アウフタクトはドイツ語で、英語のアップビートと同じ意味ですから、メロディーの先頭でなくてもアウフタクトと言う場合があります。アナクルーシスは詩の一行の先頭に付加された弱いところを指すために18世紀末のドイツで作られた言葉ですが、メロディーの先頭に付けられた弱い部分を指す言葉として比較的多く使われています。英語ではアナクルーシスと同じ意味でピックアップという言葉も使われます。)
ドラム譜で示すと次のようになります。一番下のバスドラムだけを見て下さい。第2小節と第4小節は、タイが付いているかいないかだけの違いです。タイがなければアナクルーシス(弱起)となり、タイでつなぐと食うシンコペーションになります。
アナクルーシスは、その直前とメロディーを区切る性質が強いので、このタイプのシンコペーションは連続して用いられることはめったにありません。早くてもせいぜい、1小節ごとに現れる程度でしょう。
アクセントによってグループの先頭を表現することができるので、次のような場合も上の例と同様のシンコペーションが感じられることになります。
2つ目のタイプは後ろ(後続側)にズラしたもの(「裏拍」タイプ)
「裏拍」の感覚はこのシンコペーションと同一です。
メロディーに現れる1+2+1のリズムは大抵はこの後続側へのシンコペーションと考えることができます。下の譜例の1小節目のミ-ミや、2小節目のシ-レは、小節の1拍目3拍目にあるのと同様の性質を持っています。
このタイプは連続して用いることが可能です。
スネアドラムが裏拍を強調する時の感覚はこのタイプのシンコペーションです。
次のドラム譜のアクセントを付けたところが、このシンコペーションを構成しています。バス→スネア、バス→スネアというセットの関係を常に感じます。
「食う」シンコペーションと違うのは、スネアが直前のバスドラムとセットになっていると感じることです。これとは逆に「食う」シンコペーションの場合は、スネアはその次のバスドラムとセットとして感じます。
ショパンのノクターン作品48の1の冒頭では、1小節目のメロディーのG-A♭、そして2小節のG-Dがこのタイプのシンコペーションを奏でています。
ズレの大きさに関する制限—ズレならなんでもいいわけじゃない
シンコペーションを前後へのズレと説明してきましたが、そのズレの大きさは自由というわけにはいきません。上の例では、2分音符の枠は4分音符の長さしかズレていません。4分音符は8分音符の長さしかズレていません。
シンコペーションで許されるズレは音符の音価の1/2が普通で、3拍子や3分割を含む拍子では1/3や2/3が許されるだけです。
一見1/4や1/6のズレがあっても実際にはより小さい音符の1/2や1/3のズレが本体になっています。
1/5のズレなどは、5個に分けたうちの1つ分ズレているという感覚を持つことはかなり難しいでしょう。「ちょっと短めに先行側にズレてる」というような感覚をもつのがやっとであろうと思います。音符を数えれば数が分かるからといって感覚的にそれを捉えられるとは限りません。
ここは説明が難しいところですが、実際の演奏ではピッタリ1/2や1/3のズレになっていないことは多々あり得ることでしょう。しかし我々はそれらを、1/2や1/3のキツイものであるとか、緩いものであるとして理解するのです。だから我々は、1/5のズレなどと理解するよりも、キツめの1/4のズレであるとか、緩めの1/6のズレと判定するのです。なぜならば、5分割の感覚は得にくいですが、4分割や6分割の感覚は、2分割と3分割の組み合わせによって簡単に得られるからです。
何か複雑なものを直接理解するより、単純なものの歪みとして理解するほうが簡単なのです。
3+3+2のリズム(4拍子のヘミオラ)との組み合わせ
実践的なシンコペーションで最も複雑なものは、ヘミオラと組み合わせたものでしょう。
ヘミオラはシンコペーションと感覚がよく似ているので混同されている方も多いと思われます。
ヘミオラとは、3/2拍子や3/4拍子のなかで、2分音符とともにその3/4に当たる付点4分音符や、4分音符とともにその3/4に当たる付点8分音符によるビートの層を同時に考えることです。
この時、3/4拍子ならばちょうどぴったり収まりますが、4/4拍子で同じことをしようとすると余りがでます。そのため3+3+2のリズムが生じます。
3+3+2のリズムは統一された名称がまだありません。
トレシーヨ(tresillo)というスペイン語があるそうですがこれは本来3連符のことを意味するそうなのであまり良くないように私は思います。
3+3+2のリズムの3を、さらに2+1に分割すると、ポピュラー音楽で頻繁に使われる次のようなリズムになります。
サザンオールスターズの『いとしのエリー』の歌い出しは、食うタイプのシンコペーションの枠の内部に3+3+2のヘミオラが入っている複雑なものです。リズムだけを次に示します。
3+3+2のリズムについては次の記事も参照してください。
いかがでしたでしょうか?
このように拍節構造を「枠」として理解することによって、シンコペーションやヘミオラ、アナクルーシスなどが統一的に理解できるようになります。
カテゴリー:音楽理論
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