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【出版を目指す人のためのヒント】文章を豊かにする方法

編集脳アカデミーの藤岡信代です。
電子書籍出版サポートとコンテンツビジネスのコンサルティングを行っています。

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 「本を出版したい」という方のためのオンラインスクールの講師をしています。
 書きたい想いはあるけれども、文章にならない……というのが、いちばん多いお悩みだと感じます。

 先日も、Zoomでの相談会で、「もう少し表現を豊かにしていきたい」というご相談をいただきました。そこで、お伝えしたアドバイスをシェアしたいと思います。

文章の初心者に多い2つのタイプ


 最初に、「長い文章を書くのは初めて」という方によく見られる、2つの傾向についてお話します。自分がどちらのタイプなのかによって、文章を豊かにする方法が少し変わってくので、「自分はどちらかな?」と診断してみてください。

 ひとつめのタイプは、書きたいことが次々に浮かんできて、文章が長くなるタイプです。
 会話に置き換えると、饒舌に、面白おかしく話をするのだけど、聞き終わってみると、何の話だったかがわからなかった、というイメージです。
 このタイプの人は、書いていくうちに、何をテーマにしていたのかが自分でもわからなくなり、どう結べば良いのかわからず途中で終わってしまったり、知らず知らずに違う結論を書いていたり。
 伝えたいことが伝わっているのか、不安を感じたりします。

 もう一つは、書きたいことを書いていくと、シンプルな短い文章になるタイプです。
 会話に置き換えると、大事なことを端的に話すのでわかりやすいけれど、そっけなく感じたり、物足りなく感じるイメージです。
 このタイプの人は、事実を簡潔に書く傾向があり、自分でももう少しふくらませたいと思うけれど、何をどう加えていけばよいかわからない、と感じます。

 2つのタイプの違いは、イメージできたでしょうか。
 木にたとえてみると、前者の「長くなるタイプ」は、株元から枝がどんどん分かれていき、さらに小さな枝にたくさん葉がついていて、幹がよく見えない木。
 後者の「短くなるタイプ」は、幹がまっすぐに伸びていて、枝分かれはほとんどなく、葉もついていない裸の木です。

「もう少し豊かに表現したい」というお悩みの方は、後者の「短くなるタイプ」のことが多いです。幹だけが見える裸の木ではなく、枝や葉もほどよくついて、豊かさを感じる木にしていきたいわけです。

 枝や葉をほどよくつけていくには、2つの方法があります。
 情景(シーン)を豊かに描く方法と、感情を豊かに描く方法です。

情景を五感の言葉を使って書く


 文章が短くなってしまう原因の一つは、描いている情景が事実のみになることです。
 たとえば、先日、私はラグビー観戦に行ったのですが、そのときの情景を例文として書いてみますね。

 先週の金曜日、秩父宮ラグビー場にリーグワンの試合を観に行った。その日は、夕方から雨が降り出し、試合は荒天の中で行われた。

 シンプルな事実のみを書いた文章です。
 事実はよくわかるけれども、裸の木のようでもありますね。

 この文章を豊かにしようというとき、私がおすすめしているのは、情景(シーン)を映像のように描き出すことです。そのために、五感の言葉を意識して書くようにします。

五感の言葉というのは、次の感覚を表現するものです。

  • 視覚 絵、見えているもの

  • 聴覚 音、聞こえているもの

  • 嗅覚 匂い

  • 味覚 味

  • 触覚 手触り、口触り、肌で感じるもの

 5つの感覚を表現することで、読者は、同じ感覚を自分の中で再現しながら読むことができます。自分の感覚を使うことで、より文章に没入することができ、心も動くんですね。

 先ほどの例文を、五感の言葉を意識して書いてみましょう。

 先週の金曜日、秩父宮ラグビー場にリーグワンの試合を観に行った。その日は、朝からどんよりとしたくもり空で、試合が始まる直前の夕方6時くらいから大粒の雨が降り出した。
 19時にキックオフ。大きな歓声が沸き起こる。
 不思議なことに雨はぴたりとやんだ。代わりに、台風かと思うような強い風が吹いている。試合は、荒天の中で行われた。

 いかがでしょうか? 
「どんよりとしたくもり空」「大粒の雨」「大きな歓声」「台風かと思うような強い風」。
どれも、よくある表現ではありますが、目に見える表現「どんよりとした」「大粒の」や、聞こえてくる音の「大きな歓声」、肌に感じる「台風かと思うような強い風」が加わることで、豊かな情景を感じませんか?

 事実を書くことは、文章の基本中の基本です。
 そのあとに、そのときの情景を詳細に思い出してみる。そこに、五感を意識して、表現を加えてみる。
 そうすることで、事実としての情景は、より解像度が上がり、鮮明に、色鮮やかに感じられるようになるのです。

そのときの感情を丁寧に書く


 もう一つの方法は、感情を丁寧に表現することです。
 書くことが事実のみになりがちなタイプは、そのときに感じていた感情も、あまり書かない傾向があります。

 感情も、読者の心を動かす大切な要素です。
「自分の感情は出してはいけない」と思っていたり、「自分の感情を出すのは恥ずかしい」という感覚があったりするかもしれませんが、シンプルな表現でもいいので、感情を描いてみましょう。

 先ほどの例文に、感情を加えてみます。

 先週の金曜日、秩父宮ラグビー場にリーグワンの試合を観に行った。「応援している神戸スティーラーズを東京で観ることができる!」と、1カ月も前から楽しみにしていた試合だ。ここのところ負けが続いていて、「もう負けられない」という緊張もあった。
 ところが、夕方から雨が降り出し、試合は荒天の中で行われた。雨で手が滑るし、強い風でボールも煽られる。「どうかミスが出ませんように」と、ドキドキしながら見守った。

 いかがでしょうか?
「楽しみにしていた」「緊張もあった」「ドキドキしながら見守った」というのが、感情を表した部分です。説明として、「もう負けられない」「どうかミスが出ませんように」という心の声を加えているので、より感情がわかりやすいと思います。
 これらの表現もよく使われる言葉ですが、特別な表現を使わなくても、感情を加えたことで情景がより鮮明になったのではないでしょうか。

 では、最初の例文と、両方を合わせた文章を比べてみましょう。

 先週の金曜日、秩父宮ラグビー場にリーグワンの試合を観に行った。その日は、夕方から雨が降り出し、試合は荒天の中で行われた。

 先週の金曜日、秩父宮ラグビー場にリーグワンの試合を観に行った。「応援している神戸スティーラーズを東京で観ることができる!」と、1カ月も前から楽しみにしていた試合だ。ここのところ負けが続いていて、「もう負けられない」という緊張もあった。
 その日は、朝からどんよりとしたくもり空で、試合が始まる直前の夕方6時くらいから大粒の雨が降り出した。
 19時にキックオフ。大きな歓声が沸き起こる。
 不思議なことに雨はぴたりとやんだ。代わりに、台風かと思うような強い風が吹いている。試合は、荒天の中で行われた。
 雨で手が滑るし、強い風でボールも煽られる。「どうかミスが出ませんように」と、ドキドキしながら見守った。

 文章量が増えたことは一目瞭然ですが、2つの方法で、表現を豊かにした文章は、情景が映像のように浮かんできて、面白く読めることがわかると思います。

表現の言葉は意識して増やしていく


 文章を豊かにする、2つの方法を紹介しました。
 最後に、表現を増やしていくためのヒントをご紹介します。

 それは、「たくさんインプットして、たくさんアウトプットする」ということです。

「こういう情景には、こんな表現を使う」「こういう気持ちには、こんな表現もある」といった表現のバリエーションは、意識して増やしていくことが大切です。

 英語にたとえるとわかりやすいのですが、たとえば、会話ではたくさんの挨拶の表現があります。学校で習ったのは、「How are you?」だとしても、実際には、シーンに合わせて、短く「Hi!」だったり、「How are you doing?」や「How about?」だったり、いろいろな表現があるわけです。
 これらは知っていないと、使えないですよね。

 もちろん知っている「How are you?」だけでも会話はできますが、よりその場に合ったコミュニケーションをしたいと思ったら、表現を変えていったほうがいい。

 日本語もまったく同じで、「ぴったり合う表現をしたいな」と思ったら、先に表現のバリエーションを知ることが必要です。意識して、表現のサンプルを集めていく。

 先日、朝のテレビ番組で、作家でありアイドルである加藤シゲアキさんのインタビューを観たのですが、彼も「表現の言葉を集めている」と語っていました。
 表現を大切にするプロの作家も、生み出すのではなく、集めることから始めているのです。

 机に向かってメモをとりながら小説やエッセイを読みなさい、ということではありません。ご自身の好きな作家、好きな文章を読むなかで、「素敵だな」と思った言葉、表現を丁寧にピックアップするだけで十分です。
 その言葉を書き留める、お気に入りのノートがあると良いですね。

 豊かな表現にふれる喜びを感じながら、ご自身の中の「豊かな言葉の引き出し」に、セレクションを入れていく。そんな楽しみを感じてみてください。


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