旅先で、レコードショップに。
20歳のとき、初めてひとり旅をした。
バイト先で知り合った北海道の友達の家を訪ねて、そのまま電車で南下して京都まで帰ってくる数日間の旅。大学の先輩に時刻表の見方を教わって感動し、切符に印字された「途中下車無効」の文字が「途中下車有効」になる長距離切符の存在を知ってときめいた。
千歳、小樽、函館、青森から仙台、そこからは新幹線で横浜、鎌倉へ。
電車を降りて街を歩き始めると、いつも最初にレコードショップを探した。
レコードショップは、その頃の自分にとって街で一番なじみのある場所だったから、好きなミュージシャンの顔に出会うとホッとした。初めての喫茶店で好きな曲がかかると心強かった。良い音楽がたくさんあるなら、知らない街でも生きていけるんじゃないかとさえ思った。
だけど、いつからだろう? 旅先で、レコードショップに行かなくなった。やっぱり、いつでも買えるAmazonのせい? いやいや、旅先の私がせかせかして、靴を脱いで裸足で歩くような時間をつくらなくなっていたせいだ。
尾道駅の裏には、映画『スーパーローカルヒーロー』に出てくる「れいこう堂」さんがある。店の表には野菜やお米、豆の無人販売があり、窓から覗き込むとCDや本が見える。毎日のように前を歩いたけれど、残念ながら最後まで店主さんには出会えなかった。
すると、ライターズ・イン・レジデンスの仲間が「駅向こうにレコード屋さんがある」と教えてくれた。空きPの人たちが再生した「三軒家アパートメント」の1階。狭い店内に入ると、ぎゅっと凝縮してレコード箱が置いてあって、お客さんは場所を譲り合いながら静かに掘っている。
空いている箱に手を伸ばし、指先でそっとレコードをめくっていく。いい値つけぐあい、何よりもレコードをとてもきれいに扱っているのがいい。
350段上の宿から荷物を下ろすことを鑑みて、割る可能性があるアナログは諦めたけど、写真のCD2枚を買った。ホントいうと、山口富士夫「PRIVATE CASSETTE」はカセットで、Tom Waits「Swordfishtronbones」はアナログで探したい。けど、「今日このお店で」という記憶を連れて帰りたかった。
富士夫の音楽は、学生時代によく聴いてバンドでコピーもした。Tom Waitsの「Swordfishtronbones」は、京都で出会ったイギリスの旅人と「一番好きなアルバムを一枚だけ」トークをした時、彼が迷いなく選んだ一枚。今は懐かしくさえ感じる、「ひとり旅」や「旅先」というテーマにしっくりくる。
尾道では、しばらく忘れていたようなことをたくさん思い出した。「旅先で、レコードショップに行くこと」もそう。他愛もないようだけど、こんなちょっとした心の動きが生きることを灰色にしない。
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