杉本恭子

ライターとして生きています。ときどき、インタビューと記事の書き方を伝える”編集学校”や、お坊さんの研修会に呼ばれてワークショップをします。noteでは誰にも頼まれない文を書きます。http://writin-room.tumblr.com/

杉本恭子

ライターとして生きています。ときどき、インタビューと記事の書き方を伝える”編集学校”や、お坊さんの研修会に呼ばれてワークショップをします。noteでは誰にも頼まれない文を書きます。http://writin-room.tumblr.com/

マガジン

  • はーってなりたいときのエッセイ

    はーってなりたいときに、書きたいことを書いております。

  • もよおしたときのインタビュー

    あー、この人のインタビューしたいなあという気持ちがもよおしたときのインタビューです。100%。

  • 京大的文化事典のこと

    著書『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』に関する記事のまとめ。

  • 尾道日記

    ライターズインレジデンス尾道2019。1月後半の滞在中の日記と、帰ってきてから振り返って思うこと。

  • 水澄む草青む

    • 16本

    空から降り注ぐ雨水が、何十年もかけて森の奥の清らかな泉の一滴となるように。我が身を生きることを通して言葉を綴る5人の書き手によるちいさなWebマガジン。

最近の記事

  • 固定された記事

『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』は「二度とつくれないタイプの本」だった。フィルムアート社・臼田桃子さんインタビュー

2020年6月に、『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』(フィルムアート社)を出版して以来、たくさんのメディアに取り上げていただき、著者としてわたしもインタビューを受けてきました。 でも、ずっと「この本は、編集者の臼田さんと一緒につくってきたのに」という気持ちがありました。もしも臼田さんが声をかけてくれなかったら、わたしはこの本を書くことはなかったからです。 臼田桃子さんは京都大学の卒業生で、学生時代は『京大的文化事典』に出てくるカオスな場所を「遠巻きに見ていた」ひとり

    • 骨を洗うように父の腕時計を磨く

      6月某日、ふたたび姉夫婦と一緒に実家の片付けをした。姉の夫は、モノを捨てるのにためらいのない人で、「ここからここまで、全部お願いします」と言えばどんどん片付けてくれる。「これ、なんだっけ?」とまごまごする姉妹を尻目に、すごいスピードでゴミ袋を膨らませていく。とてもありがたい助っ人である。 とは言え、確認せねばならないモノや書類もあるので、そっちはわたしたちが受け持つ。押し入れに金庫がある!と思ったら、鍵が刺さっていて「これ、金庫である意味あるんやろか?」とふたりで首を傾げる

      • ゆっくり終わる、時間をあげたい

        靴箱の上の印鑑入れから、4回折りたたんだ小さな紙が出てきた。ざら半紙みたいな、粗末な紙片。なんだこれ?と開いてみてぎょっとする。 「手をむすんで。」 いつ、誰に、もらったんだろうか。どこかでいたずらをされて笑った記憶がうっすらと蘇る。「むすぶってあまり言わへんようになったなー」みたいな会話をしたような。「手をつないで。」はエロいかもしれないけど、「むすんで。」だとほほえましい。むすんで、ひらいて、みたいな? とか。 ポケットに入れて忘れてて、出かけるときに「なんか紙入っ

        • そして、もう一生分は聴いたCDを手放した

          昨年父が亡くなり、実家に誰も住まなくなった。 残されたのは、おびただしい「いらないもの」である。 父の生前から、姉とわたしは実家に帰るたび、自分たちが残していたもの、6年前に亡くなった母の古着や押し入れの奥で萎びていた寝具などを、せっせと捨て続けていた。葬儀を終えて、何気なくかつてからっぽにした2階のタンスを開けて驚いた。父が着なくなった下着を詰め込んでいたのである。わざわざ2階に運ぶならゴミ袋に詰めて外に出すほうが楽なのに、なぜゆえにこんなことを? 「歳をとるとさ、モノ

        • 固定された記事

        『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』は「二度とつくれないタイプの本」だった。フィルムアート社・臼田桃子さんインタビュー

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        • はーってなりたいときのエッセイ
          5本
        • もよおしたときのインタビュー
          4本
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          2本
        • 尾道日記
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          16本
        • 編集学校をつくること。
          7本

        記事

          実家の電話番号

          昭和生まれのわたしの電話の記憶は、やっぱり黒電話からはじまっている。幼稚園にあがるより前には、黒電話はモスグリーンに変わった。そのうち、ともだちの家は「プッシュホン」になったが、母はもう電話を変えようとしなかった。その後は、コードレスになるまでずっと、モスグリーンの電話のままだったと思う。 母は電話が大好きで、学校から帰るといつもおしゃべりする声がしていた。ともだち、親戚、おばあちゃん。電話口で母はよく笑い、ときに声をひそめた。「ふんふん、ふんふん」と相槌をうつのがおかしく

          実家の電話番号

          「今、ここ」にある、圧倒的で不可思議で、あかるい世界/美術家・詩人 田中重人さんインタビュー

          青い画面に、白く一本の線が水平にのびていく。 ああ、これは好きな青色だと思った。シンプルなのにふしぎと単調ではない。青のなかに水面のような揺れがあり、光を反射しているようにも、光をはらんでいるようにも見える。白い線は、その青を切り裂くことなく、やはりゆらめくように発光しているのだった。眺めていると、吹き抜けの高い窓からのひかりが、青い画面のうえをにじるように移ってゆく。 この絵は、神山で暮らす田中重人さんが描いた、「祈り」と題する絵画シリーズ連作のひとつ。一つひとつの絵に

          「今、ここ」にある、圧倒的で不可思議で、あかるい世界/美術家・詩人 田中重人さんインタビュー

          味方にしか届かんすぎる言語になってる。100000tアローントコ・加地くんとのおしゃべり

          寺町御池上ル40歩。京都市役所の横にある、レコード・CD・古本・など屋ーーこれが、加地くんが自らの店を説明する短い言葉だが、「など」の部分に100000tアローントコを表すなにかがにじんでいる。この店に来ると、言語化しきらないところ、説明しつくさないところを残しておいてもいいよな、と思う。 加地くんとのつきあいは、もう数えるのもめんどくさいくらい長い。土曜日、ひさしぶりに店に行っておしゃべりした。途中、わたしが最近考えこんでいたことに重なるくだりがあり、「メモしていい?」と

          味方にしか届かんすぎる言語になってる。100000tアローントコ・加地くんとのおしゃべり

          「まちへの貢献って意外とかんたんかもしれない」熊野公共文庫(public library)の話

          ある日、丸太町通から鴨川方面へと自転車をこいでいると、青いペンキで塗られた冷蔵ショーケースがぽつんと置いてあった。なかには、漫画や絵本が入っている。いつもの道に現れた非日常物体。立ち止まらずにいられない、声のようなものを発している。そのときは、親子連れがドアを開けて絵本を選んでいて、彼らが去った後、ようすを見守っていた女性がスマホを出して写真を撮っていた。彼女が歩き出すのを待って、わたしも近づいてみる。 まちのなかに、「ここに誰かがいる」と感じられるのはとてもいいなと思う。

          「まちへの貢献って意外とかんたんかもしれない」熊野公共文庫(public library)の話

          ポピュラー音楽を遡ると見えてきた“普遍的郷愁”の世界。遠藤卓也さん|グッド・アンセスター・ダイアローグ

          『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』ローマン・クルツナリック著/松本紹圭訳)を巡る対話「グッド・アンセスター・ダイアローグ」。第二回は、お寺の音楽会というジャンルを確立し、現在はお経や聖地の音など”お寺のフィールド・レコーディング”ともいうべき領域へと足を踏み入れている、”えんちゃん”こと遠藤卓也さんとおしゃべりしました。遠藤さんにとって「これがなければ今の自分はいない」と感じる、グッド・アンセスターから贈られた"恵み”とは? (聞き手・構成執筆:杉

          ポピュラー音楽を遡ると見えてきた“普遍的郷愁”の世界。遠藤卓也さん|グッド・アンセスター・ダイアローグ

          『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』を買える本屋さんなど(7/21更新)

          2020年6月26日(金)に、初めての著書『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』をフィルムアート社さんから出版しました。編集者は臼田桃子さん、読み込みがいのある装画は宮崎夏次系さん、複雑怪奇な本文構造を調教するがごとくデザインしてくださったのは吉岡秀典(セプテンバーカウボーイ)さん、正確無比な組版をしてくださったのは藤原印刷のチーム組版のみなさまです。お世話になりました…! というわけで、完成した書籍をお取り扱いいただいている書店さんをご紹介したいと思います。 本書を置

          『京大的文化事典 自由とカオスの生態系』を買える本屋さんなど(7/21更新)

          ちいさい声で、ちいさなかなしみを。

          もう1ヶ月以上、背中でドアがバタンと閉まる音を聞きつづけている。 あの日でなければ出張取材はもうできなかったな、あの日だったから友だちに会えたんだ。気になって訪ねたお店で「明日から休業します」と言われることがつづく。「あ、また背中でドアがしまったな」と思う。バタン。昨日までのあたりまえが消え、「またこんどね!」という言葉が喉でつまる。 そのうち「この間に休業した小売店の数」は、グラフに表現されるのかもしれない。でも、現実に起きていることはグラフに還元できない。ポイントの数

          ちいさい声で、ちいさなかなしみを。

          ライターは何を目標に書いている?

          #ドーナツトーク は、誰かが出したお題についてバトンリレー式の連載。書き終えたら次の人を指名し、最後はお題発案者が〆めます。 はじめての #ドーナツトーク 「ライターとしての目標はなんですか?」が ひとめぐりしました。最後に、お題発案者のわたしが、ドーナツのかたちをなぞって〆ます。 この世界は変えられるという希望/杉本恭子 はじまりは、わたしが宮本拓海くんに「書くことで目指す目標みたいなものがあるんですか?」と問いかけられたこと。わたしは、とっさに自分のなかに思い浮かんだ

          ライターは何を目標に書いている?

          「尾道ライターズ・イン・レジデンス」のこと。

          「尾道日記」のシメは、「尾道ライターズ・イン・レジデンス2019」のこと。一緒に暮らした、ひとクセもふたクセも、無くてななクセもあったレジデンスの人たちのことを綴っておきたい。 「尾道ライターズインレジデンス」とは? 「尾道ライターズ・イン・レジデンス2019(以下、OWIR)」は、ひらたく言うと「真冬(オフシーズン)のゲストハウス「みはらし亭」の部屋をリーズナブルにお借りして滞在する、物書きのためのプログラム」だった。 主催は、NPO法人尾道空き家再生プロジェクト(通称

          「尾道ライターズ・イン・レジデンス」のこと。

          山の道であり、海の道でもある。

          尾道のまちは、線路を挟んで海側と山側に分かれていて、山側の斜面には階段と坂道がうねうねと走っている。線路を渡るルートは、歩道橋とトンネル、そして踏み切りのいずれかでつくられていた。 「なぜ、ここは歩道橋でこっちはトンネルになったんだろ?」と思うけれど理由はわからない。地形や地質、あるいは高低差、それとも土地所有者の好み? それぞれの道ができた時代のやりとりを想像しながら歩いた。 尾道の人と話していると「明治に山陽鉄道が通ったときに」という話がよく出てくる。それまでは、山は

          山の道であり、海の道でもある。

          旅先で、レコードショップに。

          20歳のとき、初めてひとり旅をした。 バイト先で知り合った北海道の友達の家を訪ねて、そのまま電車で南下して京都まで帰ってくる数日間の旅。大学の先輩に時刻表の見方を教わって感動し、切符に印字された「途中下車無効」の文字が「途中下車有効」になる長距離切符の存在を知ってときめいた。 千歳、小樽、函館、青森から仙台、そこからは新幹線で横浜、鎌倉へ。 電車を降りて街を歩き始めると、いつも最初にレコードショップを探した。 レコードショップは、その頃の自分にとって街で一番なじみのある

          旅先で、レコードショップに。

          「旅する編集学校」から始まった1年間を振り返る

          まっくすさんこと、まちとしごと総合研究所の東信史さんに誘われて、「旅する編集学校」を開いたのはちょうど1年前。フォトグラファーのそのちゃんこと、其田有輝也さんと一緒に「旅先のまちで暮らす人にお話を聞いて記事を仕上げる」というプログラムをつくりました。 そのとき、まっくすさんがつくってくれた動画。 「旅する編集学校」の目標は、「旅先で仕事しながら生きていく、プロのライター/フォトグラファーになる基本を学ぶ」こと。私が担当したライターチームでは、インタビューの基本、記事執筆の

          「旅する編集学校」から始まった1年間を振り返る