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人的ミスの分岐点 秋豆絹
例えば、卵を割るとき、卵の中身を三角コーナーに落とし入れ、フライパンに殻を投げ捨てるミスを犯すというのはあるあるな話だ。
このように、人は手にしている物を使う一連の動作において、その順序を入れ違えるバグを起こすことがある。
今日まさに、私もその分岐点に立った。
夕どき、効率的に家事をこなしたいと思い、夕食のお味噌汁を先に作りつつ、お風呂に入ってから続きの品を作ろうとお風呂のお湯を沸かしていた。
ちなみに夕食のラインナップは、麻婆ピーマン茄子と、小ねぎと豆腐とあおさの味噌汁だ。我ながら健康的な献立である。
ティファールで沸騰したお湯を鍋に注ぎ、粉末タイプのだしの素を取り出した。すると、お風呂のタイマーが私を急かすように鳴った。
そうそう、今日は寒いから体が温まる入浴剤を入れようと思ったんだった、と入浴剤を取り出す。
はい、今。
今この瞬間、地球上に数人くらいは入浴剤を鍋の中に入れ、だしの素を湯船に撒くと思うのだ。
ほっほっほ、勝ったぞ、私はこの構図にいち早く気づき、見事最悪の事態を回避したのだ。そうして鼻高々にお味噌汁を作り上げ、湯船に浸かった。
***
ところでもし、このバグに引っかかっていたらどうなっていただろうか。お風呂に入った私は湯船の波に自重を委ねながら考え始めた。
お味噌汁を作るはずだった鍋はミニ温泉に変貌を遂げるが、具材はまだ入れていなかったので、鍋の中身をお風呂に入れて、ティファールからやり直せばいいだけの話だ。
問題はだしの効いたお風呂である。湯量的に捨てたくはないが、一般家庭にこの量のだしは手に負えない。
ただ、だしといっても粉末の量が少なすぎて、あの尊いお味にはならないだろう。せいぜいそこはかとなく鰹節のにおいがするくらいだ。そんな湯船、浸かりたいだろうか?
もし間違えるとしても、先に鍋に入浴剤を入れて、その時点で自らの過ちに気づきたい。