その香水が紅茶の香りってわかりますか? 秋豆絹
紅茶の香りが好きすぎて、紅茶の香りの香水やハンドクリーム、ルームフレグランス・柔軟剤などを探していた時期があった。
その香りは、想像しやすく言えばミルクティーの香りだし、より正確に言えば、紅茶の茶葉が入ったクッキーの香りである。そういった紅茶や紅茶入りの食べ物を口にするたび、その香りが体全体に行き届き、縮こまった筋肉をほぐしてくれるのだ。
もし、常に自分の身体や部屋から紅茶の香りがしていたら、相当なリラックス効果が期待できるのではないか(そしてすれ違うたび紅茶の香りのする奥ゆかしいレディになれるのではないか)と思い立ち、英国紳士もドン引き、血眼になってグッズを探した。
探して分かったのは、紅茶の香りといっても様々な種類があること、そしてそのほとんどはあまり紅茶の香りだと思えないということだ。
まず種類について。紅茶の香りとされているものは、大抵はブラックティー・ホワイトティー・ウーロンティーに区別される。しかし時折、ジョーマローンという高級香水専門店の「アールグレイ&キューカンバー」に代表されるようなトリッキーな名前のものもある。
このような種々様々な冠を載せた香りたちを、面倒くさがらず一つ一つ吸い込んでいく。
この作業が意外と骨が折れるのだが、それはまだいいのである。
問題は、それがお茶の香りだと思えるかどうか、なのだ。誰が嗅いでもそれだと分かればいいのだが、「これは紅茶の香りです」と言われたから「ああ、まあそうかも」となるものが圧倒的に多いのである。そして、「まあそうだと言われたらより紅茶に近いかもな」と思うものほど渋みのある香りになるため、果たして紅茶の香りだと知らされずにこの匂いがする人間に出くわしたら、周囲の人たちはそれをなんだと思うだろうか。
自分は紅茶の香りだと思って纏っていても、周りが何の匂いだと認識しているかわからないのはリスキーである。
リアリティを追求しようとして中途半端に似ているものをつけるわけにもいかず、かといって紅茶の香りではもはやないただのいい匂いを纏いたいわけでもない。こんなわがまま娘の需要を満たしてくれる白馬の王子様はいないのである。
おかげさまで、探し始めてから約5年が経つ今も、納得のいく商品に出会えていない。
いや、これには若干の嘘がある。自宅のトイレ清掃中に使った「トイレマジックリン シトラスミントの香り」を除けば本当だ。
このままだと私は禁忌を犯すことになるかもしれない。