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自転車駆けるクリスマス会の代償 秋豆絹

最近ふと思い出したエピソードがあったので、また記憶の底に沈んでしまう前に書き起こしておこうと思う。

高校時代、私が所属していた部活ではクリスマス会を毎年開催していた。私はその運営係になり、レクリエーションの内容を考えたり、会中にクリスマスソングを演奏したりもした。
そういった運営業務の一つに、飲食の買い出しがあった。
これは、学校から自転車を漕いで片道15分くらいの、絶妙に遠い距離にある街唯一のショッピングモールに向かい、クリスマス会にふさわしい食べ物や飲み物を買ってくるというごく普通のミッションだった。
そして、学校の最寄り駅から自転車で通学していた私は、見事この買い出しメンバーに選ばれたのである。

様々な準備を終え、クリスマス会当日を迎えた。
確かクリスマス会は2学期終了日に行われていたので、午前中には放課後となり、その後買い出しに行く予定だった。が、何かしらの理由で買い出しに出る時間が遅れ、爆速で自転車を走らせることとなった。

途中、部室で準備中の運営メンバーから「先輩たちがカラオケ大会を始めて、場をもたせてくれている」と連絡が入った。
完全に待たせてしまっている。緊張感も走り出した。
とにかく急いで目星のものをゲットし、超速で帰らなければならないと私たちは合点した。

ちなみに後日、このときのカラオケ大会の動画が送られてきたのだが、そこには先輩方がアンパンマンとばいきんまんのお面を被ってアンパンマンのマーチを歌う姿が映されていた。

***

ドーナツ・スナック菓子・ジュースなどを一通り買い終えて、元来た道を予定通り超速で引き返す。この後3年間、この街をこれ以上の速さで駆け回る瞬間が何度も訪れることを、この時の私はまだ知らない。凍てつく冬の空気を全身に浴びながら、これが自己ベストだと言わんばかりに息を切らして学校に戻ってきた。

買い物袋から、調達したものを急いで取り出すと、ある異変に気付いた。
買ったはずの2Lペットボトルのオレンジジュースがないのである。一緒に買い出しをしたメンバーが持っている袋にもない。確かに私の持っていた袋に入れて自転車のかごに…いや、超速で漕ぐには袋が重すぎてハンドルが取られるので、途中でジュースだけ自分の後ろの荷物を載せられるスペースにひもで縛って載せたのだ。だが、ジュースどころか縛ったはずのひもも姿を消していた。

となると私はあの道中で、2Lペットボトルのオレンジジュースを堂々落としていることになる。そのサイズのペットボトルが未開封のまま落ちているのは日常の景色としてはあまりに異様だし、落とす瞬間を誰かに見られていたとしたら滑稽すぎて死ぬほど恥ずかしいな、というかジュース1本減ったな足りるかな、といった考えが一瞬間にして頭の中で飛び交った。
買い出しメンバーと相談した結果、校内の自販機でジュースを買い足すこととなった。

私たちは超速を手にいれる代わりに、2Lペットボトルのオレンジジュースを失い、全ての買い物を終わらせて部室に戻ると、同期がドラえもんのうたを、先輩たちが津軽海峡冬景色を歌い終えて私たちの帰りを待っていた。
無論、カラオケ大会は終了している。

クリスマス会はなんとか無事に成功し、事なきを得た。その後、オレンジジュースを回収しに該当の道路に向かったが、すぐに見つかりそうなあのでかい図体はついに見つからなかった。

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