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逆に観客みんな寝てたのかもしんない〜劇団ちりぢり第8回公演「舞浜騒乱事件」鑑賞記〜

【本文は読了までに約5分かかります。ご参考までに】

 盛岡劇場は鉄骨と黒いシートでほぼ全体を覆われていた。
 外壁の工事中らしい。まるで地下の芝居がばれないようにしているみたいだ。なんだか建物自体が密やかな企みにしれっと手を貸しているみたいで楽しい。そう思いつつ向かったタウンホールからは、なんとなく聞き慣れたメロディが漏れ聞こえていた。

 劇団ちりぢり第8回公演「舞浜騒乱事件」は面白かったが私は実に困り果てていて、だが面白かったんですけれども……というループに入ってしまうような舞台だった。
 何がどのくらい困ったかというと大きく三点あり、

本作のあらすじや固有名詞の表現がすごく躊躇われる
・これを面白いって言ったら特定企業・団体に怒られるんじゃないかとビビってる
・それでも面白かったので感想を書きたいからワナワナしている

……といった次第。

 二番目、三番目については私が一所懸命頑張ればいいし、本文を読んでくださる奇特にして賢明な皆様がお察しくださると信じて、このまま文章をつづってみたい。


 まあとにかく困った。
 劇団ちりぢりというと、しばしば奇天烈な形容詞で表される舞台美術(※1)や照明、舞台を出てコンビニへ向かえば即職務質問を食らいそうな衣装、爆音に次ぐ爆音に次ぐ爆音、役者陣が五臓六腑まで絞り出すパッション溢れる身体表現、それらがマリアージュした一見ハチャメチャだが冷静に考えると意外に筋がある話運び(※2)が特徴だと私は思っているのだが、そのうえで今回題材に選ばれたのが世界で一番有名なネズミの拠点(日本支部)である。
 もっともその事実自体はチラシに掲載されているので「オイオイ大丈夫かよ……」と肝を冷やしながら桟敷の真ん中に座ったわけだが、やっぱりどう考えても聞き覚えのある客入れ曲がカットアウトした瞬間、舞台上手に吊られたスクリーンに映されたのは、北緯39度01分55秒 東経125度45分14秒が首都の国にまつわるニュース。
 のっけからネットミームでいうところの「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」理論よろしく、なんというかこう、詳しく書けないもんに詳しく書けないもんをかけてドーン!みたいな状況で混乱させられるわけだが、それに輪をかけてሰሜን ኮርያトップの後継者争いに興味がなかった故人の顔ファンの女(佐藤玲香)が出てくるうえ、(※3)そのお面をつけたキャスト陣が乱舞し始める強烈を極めたツカミが展開。開始1分にして千葉のくせに東京を名乗る広場どころの話ではなくなる。

 実のところ、ሰሜን ኮርያトップ(中略)顔ファンの女(以下、上演台本に倣って「佐藤」と表記)というアイデアは結構好きで、言われてみれば私も同じ地球に生まれたいち人間としてなら彼の顔は別に唾棄するほど嫌いではないというか、「たしかになんかいい感じに憎めない顔かもしれない……」と思ったりした。これは演出も担当した作・藤原瑞基の過去作にもよく見られる「しばしばタブーとされる題材の扱い方」のセオリーに則っていたと思うのだが、この手法についてはもう少し時間をかけて考えてみたいので今はここまでとしておく。

 そんなこんなな佐藤の前に突如「舞浜の遊園地を作りませんか」と言い出す女・伊藤(伊藤栞)が現れ、偶然伊藤と同じことを考えていた男・甲地(甲地清一郎)ともども、藤原(藤原瑞基)、渡邉(渡邉愛実)、荒井(荒井香澄)という愉快な仲間たちを迎え、新たに白くて尖った城が印象的なワンダーランドを作る計画が動き出す。

 ……という一見珍妙な話だが、展開されるあらすじ自体は意外とシンプル。

 「仲間たちと一つの目標に向かって努力」→「ライバル登場」→「トラブル発生」→「THE END! ~Fin.~! ―完―! 」

 的な、いわば起承転結スタイルだと思うのだが、ここでいう「起」の炸裂が振り切っているので、その勢いを借りてエンディングまで駆け抜けていった印象だ。

 そして「ネズミーランド」「倉本聰じゃないほうの北の国」という要素だけなら奇を衒った舞台として終わりそうなところを、そうさせないのが劇団ちりぢりの底力。強烈な登場人物たちを立体的に立ち上げた役者陣の熱量溢れるパフォーマンスと、昨今ネットを中心に展開されがちな「コンプラがアレだからテレビが面白くない」的な論調に対する「面白くないものが存在することは悪なのか」という捻った問いも忍ばせたシナリオにすっかり充てられてしまった。
 見ていて感じたのは、私にとって劇団ちりぢりの面白さは「自分たちがやるものをまっすぐ信じて全身でぶつけてくる」勢いと迫力だということ。仮に別の誰かが同じシナリオ、同じ演出で、ハリウッド級の予算で本作を上演しても、私はおそらくいま一つの物足りなさを抱えながら劇場を後にするだろう。今現在、この舞台に関わった人々が、常軌を逸した勢いと熱量で「舞浜騒乱事件」という夢を信じて、ミサイルのごとく全力で客席に撃ち込んでくるエネルギー。劇中のセリフ曰く「矛盾を抱えながら生きていくことはいけないことではない」「ただ、とってもかなしい」現実において、劇場でしか顕現しえない刹那の流れ星なのである。

 本作を見ていて、私が最後に(※4)夢と魔法の王国に行ったのはいつだっけな……と振り返ると、就職1年目に言いようもなく辛かった頃、見かねた叔母に連れられた記憶が蘇った。その頃と現在のあの場所は違うかもしれないから、私が舞台を見てイメージしたアトラクションとはだいぶ変わっているのだろう。
 ただ、ひょっとしたらあの時、叔母は私に「一瞬でも現実を忘れて楽しんでほしい」と願ってあの地へ誘ってくれたのかもしれないと、本作を見て思った。たしかに夢と魔法を守るためには夢を見続けなければならないのだ。現実問題、覚醒している時間がほとんどだったとしても。



 総じて満足して劇場を後にした次第なのだが、本文最大の困った点については最後に言わせてもらって終わりとしたい。とにかく特定の固有名詞を出しても問題なく本文を終わらせられる自信がなかったので、結構縛りプレイというか、頭の体操になったというか、精一杯やりました。楽しかったです。終わります。

(文中敬称略)
(所属団体等は省略させていただきました。ご了承ください)
(文責:安藤奈津美)

公演チラシ表面
公演チラシ裏面
立て看板


 (※1)舞台美術は一定時間撮影可だが、撮影画像のインターネット等へのアップロードはお断りとのことだったので、利き手じゃないほうの手で備忘録として絵にしたけれど到底人に見せられる画力ではないことから、アップロードは差し控えることとする。

(※2)「ストーリーテリング」という表現にしようかとも思ったが、思っていたニュアンスと若干違ったし、横文字があまり好きでないのでこの表現とした。

(※3)なぜここに注釈を入れたのか覚えていない。筆者が混乱した状況を思い出し、また混乱したものと思われる。

(※4)題材となったテーマパークの固有名詞の言い換えをどうするか、ここで1分ほど悩んだ。やはりボキャブラリーは多ければ多いほうがいい。猛省。

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