6/18映画『怪物』坂元裕二さんの傑作がまた増えた!
高校生のとき、レンタルビデオ店で『東京ラブストーリー』を借りて観て、ドはまりした。昔の名作ドラマってもっと王道な感じかと思ったけど、いい意味で王道じゃない。テンポの良い台詞の掛け合いが大好きだった。
そのあと、芦田愛菜ちゃんの『Mother』を観て、坂元さんの作品と出会い直した。それから貪るように観た。『Woman』『それでも、生きていく』『最高の離婚』『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』、最近だと『初恋の悪魔』も本当に好き。普通の人々のちょっとした悲しみを描いているような、坂元裕二さんの作品が大好き。
『怪物』は、坂元裕二さんファミリーである田中裕子さん、瑛太さんも出ているので期待大で観に行った。事前知識なしで観たので、感想が新鮮なうちに残しておきたい!
作品概要
◇日時
2023年6月2日(金)公開
◇特長
◇あらすじ
◇公式サイト
見方によって異なる真実
映画は大きく三部構成になっている。数か月間の小学校生活で起こるいざこざを、以下のように別の視点で描いている。
①母親 麦野沙織の視点(安藤サクラさん)
②教師 保利道敏の視点(永山瑛太さん)
③子どもたち 麦野湊・星川依里の視点(黒川想矢・柊木陽太)
これ、②→③→①とか③→②→①とかの順番で上映されていたら、だいぶ印象の違う映画だったと思う。
①の時点で、母親を「良い母親」と思い込み、隠蔽体質な学校と悪い先生、という構図ができあがっていた。クリーニング店で働きながら息子(湊くん)を育てる母親は、間違いなく息子思いだったし、小学高学年のわりに母親に対して素直な子に見えた。
「ふぅん瑛太は悪い先生の役なのか~珍しいな」と思っていた。彼女(高畑充希さん)がでてきて、家でイチャイチャしてる描写をみて、嫌悪感を抱いたくらい。そこには、生徒をいじめている先生というのもありながら、「先生なのに」というバイアスもあったように思う。
②になり、この新人教師がやる気充分で着任し、生徒を一生懸命に見ていたことが分かる。むしろ、事なかれ主義な学校の被害者でもあった。何もしていないのに新聞に載るのはどんな気持ちだろうか。そして、実は湊くんが悪い子で、依里くんをいじめていたんじゃないかと思うようになる。
そして③で全てが覆される。こんな構成の映画は初めてかも。物事って多角的で、見方によって真実が異なるなんて分かっているけれど、切り取り方によってこうも異なるのかと思った。
校長先生(田中裕子さん)も、悪の象徴のような人に見えたけれど、ラストまで行くと心があることが分かる。
諏訪湖の風景の美しさ
長野の諏訪湖の近くのお話なんだけど、湖も山もすごくきれいだった。インタビューを読んでいたら、元々東京の西側(多摩あたりかな?と思った)で撮影予定だったらしいけど、火事シーンの許可降りず、諏訪になったらしい。諏訪で良かった。諏訪湖の美しさ、怪物がいそうな不気味さと、坂本龍一さんの音楽がマッチしててすごく良かった。湖ってなんで何かが出そうな感じがするんだろう……(ネッシーの影響?)
最初の方の①の母親視点のシーンだと、心情不安とあいまって、なんだか景色も淀んで見えるんだけど、③で小学生二人がキラキラと遊んでいるシーンだと、水も緑もキラキラしてるように見えた。
星川依里くんがとんでもなく可愛い
言及せずにはいられない! 星川依里(ほしかわ より)くんの可愛さについて。
最初の登場は、安藤サクラさん演じる母親が息子を探しに来るシーンだったと思う。星川くんの家を訪ねて、依里くんに「入っていいよ」と招かれるのだったと思うけれど、その可愛さに一気に胸を掴まれた。来訪者が嬉しいような感じがした。なんて可愛い子なんだ……女の子みたい、と思った(これが後々、この映画の仕掛けであることに気づく)
こんなことを書くと良くないかもしれないが、赤ちゃんの時の可愛さをそのまま閉じ込めて小学生になったような可愛さだと思ってしまった。
終演後、依里くんを演じた柊木陽太さんのInstagramやカンヌでの映像を見てみたところ……綺麗な顔だちですごく可愛いけれど、喋った感じは年相応だったので、演技をしていたんだと分かる。
※その後、怪物で検索をすると「星川君かわいい」「星川君の可愛さしか入ってこない」などの感想・ツイート、ブログなどが出てくる出てくる……やっぱそうだよね。笑
依里くんは、学習障害があるかのように扱われ、学校でいじめられている。湊くんに言わせると「普通」だし、少し幼いだけで障害などないのではないかと私も感じた。けど、いじめられても「傷ついていないフリをする」のがデフォルトとなっており、トイレに閉じ込められたのを先生に助けられても、あっけらかんと「あ、先生か! ありがと」と言う(このセリフも超可愛い)。周りからすると、いじめなど起きていないのではないかと錯覚してしまう。
親からのいじめ
小さな時から、父親に「お前の脳は豚の脳」と言われて育った依里くん。自分は人と違って劣っていると思い込んでしまう。物語の中の話ではあるけど、こういう思いをする子どもが一人でも減ればいいと心から思う。小さい時から親に可愛がられずに、自尊心など持てるわけもない。あんなに魅力的な依里くんが、「自分はいじめられて当たり前の存在」と捉えているかと思うととても辛い。
先生がお父さんに会った時、どうにかして気がついてあげられなかったか。大人が子どもを守ってあげられなかったか……この映画はいくつかの「あの時ああしていれば」ポイントがあるけれど、依里くんのこと誰か気づいてあげられなかったかなと。大人もみんな自分のことに必死で気づかない。
廃車となった車両の中で、ベビースターを食べる時間が、夢みたいに見えた。怪物だーれだ?ゲームをしながら、依里くんが言ったセリフ、正確に思い出せないんだけど印象的だった。
同性を愛することへの葛藤、みたいな話だったんだと後から気づく
映画の中で一度もその言葉自体は出てこないのに、LGBTQ問題が取り扱われているのがほんのり分かった!(私は全然詳しくない)
「結婚して家庭を持つまで、ママは頑張るから」
「(運動会の練習で)男らしくないぞ」
聞く人によっては問題ないし、それほど問題視される発言でもないけれど、違和感が少し耳に残ったという感じ。小学生の湊くんは、だんだんと依里くんに特別な感情を持つ一方で、男の子を好きになるなんていけないんじゃないかという葛藤のバランスが取れなくて、おかしな言動をしてしまう。車両の中で二人の顔が近づくとき、キスシーンがあるのかなとドキッとした。でもキスしないで欲しいと願いながら見てた私は、「小学生男子のお友だち」であってほしいって思っていたかも。
ラストシーンの意味はどっちでもいい
いくつかのブログやツイートを確認してみたのだけど、ラストシーンの意味、「依里くんと湊くんは、生きているのか死んだのか」という考察が多かったように思う。
子どもは逃げる術がない。たった一人、理解者(湊くん)がいれば生きていけるかもしれないけれど、大人の都合で引っ越しをさせられる。父親と暮らし続けたところで虐待される。警察に訴えても施設送り。湊くんと過ごす道は一つも残っておらず、子どもであるうちは八方塞がりだなと思う。
ラストシーンが、夢か死後の世界か。私はそこは答えを出さなくていいと思うのだけど、やっぱり生きて欲しいなと思う。大人だからこう考えてしまうけれど、一人息子である湊くんが死んでしまったら、お母さんどれほど悲しいだろう、と思ってしまう。
だけど、依里くんが死んでしまったら、死ぬほど悲しんでくれる大人はいるのかなと考えると、やっぱり何が正解かわからなくなる。