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140字小説集 怖くてやさしい夢

Xで140字小説をpostしています。
今週はお寺で納涼怪奇譚さんの「Paradox presents お寺で納涼怪奇譚 外伝 夢」に参加しています。
140字以内の「夢」に関する怪談の募集です。

怖い話は苦手です。怖がりなんです。
書くのも上手じゃない。絶対的にストックが足りないのだと思います。
でも、憧れがあるんですよね。ただのテキストなのに「怖い」って感じることがとても不思議で、面白いことだな、と思っているからです。


xss No.002(通番をつけることにしました。)

花火が鳴った。彼女が歓声をあげてこちらを見る。
「きれいね」
子供みたいに僕に言う。浴衣の首元に汗が見えた。
「夢みたいだ」
呟いた。来て良かった。やっぱり地元がいい。帰って来て良かった。帰って、あれ、いつ
「みたいじゃないよ?」
彼女が言った。「人が落ちたぞ」遠くで声がした。

「夢じゃない」

実際の怖い夢も募集している公募なんですが、自分は夢をほとんど見ない上にだいたい能天気な夢です。本屋でしこたま本を買うとか、自転車でE.T.みたいに空を飛ぶとか。たまに仕事の日に思い切り寝坊した、とか旅行先で会社にトラブルが起きて呼び出されたとかの怖い夢も見るものの、多分期待されているのはそんな夢ではありません。
「創作可」の文言に甘えて、構造的な怖さを。「夢みたいとおもったら、夢」の型(忍術みたい)この夢自体は怖くないなあ。まずは肩慣らし。次行ってみましょう。

xss No.003

子供の頃お気に入りのぬいぐるみがあった。いつも抱いて寝た。たまに夢に出た。にこにこ笑っていた。
この間久しぶりに夢に出た。埃まみれで何かぶつぶつ言っていた。実家に電話する。「今度探しておく」と母が答えた。
昨日母から電話があった。「汚いから捨てた」
まだ、夢に出ていない。

「ぬいぐるみ」
『猿の手』のような、3つの願い形式の呪物を目指してみました。最後がわからない方が怖いと思う。結果がわかるより、想像させる方が怖いんじゃないかなというのは単純に自分の感覚です。確証はない。
あまりに完全に呪物(願いを叶えてくれるような)にしてしまうと、作り話感が強くなってしまうので、ぬいぐるみの様子だけにしてみました。
怖い……かな。


xss No.004

黒猫を飼っていた。青い瞳の猫だ。気が強くてしょっちゅうひっかかれた。家から逃げた時に事故で死んだ。逃してしまったのは、私だ。たまに夢に出る。実家の居間でにゃあおとなく。なでてやると喉を鳴らす。目が覚めると古傷がうずく。君は私を連れていってもいいと思う。お休み。またおいで。

「黒猫」
これだけ実話ですね。へいたという黒猫を飼っていました。気の強い猫で、いまだにこの猫につけられた傷で半袖が着られません。
ずっとなんらかの動物がいる家庭で育ったので、猫が2匹、犬が6匹、今まで一緒に暮らしたことがあります。今いるのは猫と犬が1匹ずつで、残りはもうすでにこの世にいないわけです。
どのペットも、毛布で包んで近所の共同墓地に土葬されました。色が褪せて、体が硬直して、「生きている時とは違う」と子供心にもはっきりと感じられました。
何匹かが事故で亡くなっています。土地勘のない車に轢かれたものがほとんど。けれどへいただけは事故の原因は私だな、というはっきりした負目があります。
たまに夢に出てくる姿は、家で遊んでいた時のままです。恨まれたりも、呪われたりもしません。気が強いけど、やさしいやつだったのでしょう。
でも、君は私を恨んでもいいよ。またおいで。

140字小説集 No.014

「Paradox presents お寺で納涼怪奇譚 外伝 夢」は8月20日まで140字小説を募集中です。我こそは、という方(私の代わりに)ぜひ背筋も凍るようなお話をお寄せください。