ショートショート(と、朗読) ゾウ塚 【SAND BOX 1099】
ーおそらくは下にゾウが埋まっている。ー
ゾウ塚とはゾウの塚である。おそらくは下に象が埋まっている。
言い伝えによると地震などの災害のときゾウ塚だけには被害が及ばないとのことである。『何かあったらゾウ塚に逃げろ』とよく祖母が言っていた。
以前、東京から来たえらい先生がゾウ塚の土を掘り返したことがあった。古墳だとかなんだとか。要するに昔のえらい豪族の墓だろうと言う話であった。日本の、しかも田舎の辺境地にゾウなんか埋まっているはずがないというのだ。
一週間ほど、泥まみれになりながらえらい先生はゾウ塚の土を掘り返した。豪族の骨も装飾品も見つからなかった。十日目の朝になって、とうとう出た。細長くて鋭い、とてつもなく巨大な牙のようなものだった。
「ゾウじゃない」悪いことをした言い訳みたいにえらい先生が言った。「これは象牙だ」。大急ぎで自分の掘った穴を埋め戻して東京に逃げ帰った。
ゾウ塚とはゾウの塚である。おそらくは下に象が埋まっている。
今月は、文学フリマ岩手に参加します。せっかくなので、岩手にゆかりの深い柳田國男の「遠野物語」にちなんだお話をお届けしようと思っています。
今回のお話のもとになった話はこれです。
「ジヤウヅカ森」についての伝説です。この話の前後は「ダンノハナ」という場所について記されており、この二つも掘ると人骨の出る土地だそうです。
島亨による補註に「ジャウヅカは定塚、庄塚又は塩塚などヽかきて諸国にあまたあり(後略)」とあり、結構全国にある地名のようです。ただのお墓ではなく、神様が祀られているそう。
個人的には「象を埋めし場所なり」が(わざわざお話を作るくらいに)気に入っていて、祀られた神様が年月によって忘れられ、名前からの連想が残ったのだと思います。自分たちが「どうもこうらしい」と思っているものって、意外とこうした連想ゲームでできていると思う。
「何かあったらゾウヅカ森に逃げなさい」とおばあちゃんに言われた孫が「ゾウ塚森……」と胸をドキドキさせるのが目に見えるようです。
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今月のイラストは4月にもお願いした悠紀【丸大商店】さんです。悠紀さんのお住まいになっている大船渡をPRするYouTubeチャンネルを運営しておいでです。
朗読の水上洋甫さんは宮城県気仙沼市のご出身。お二方とも東北の方なんです。文学フリマ岩手9にもご参加なさいます。
と、いうわけで、明日(6月16日)はいよいよ文学フリマ岩手です。
悠紀さんのご出店ブース「丸大商店」はこちら。ブース番号はD-32です。
「酔っ払い激闘編」て…。
水上洋甫さんのご出店ブース「ポライエ書房」はこちら。ブース番号はB-10です。
私の出店ブースはこちらです。「珈琲まねきねこ」。ブース番号はC-27です。
「遠野物語」を題材にした「猫の経立」シリーズ、来週も続きます。いつもと少し毛色が違いますが、お付き合いいただけますと幸いです。
前回のSAND BOXはこちら。
全体はこちらのマガジンにまとめています。