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背中に生えた羽根について考える

夜には背中に生えた羽根を見せてくれたマリ

草野正宗(1992年)「僕の天使マリ」『惑星のかけら』収録

スピッツの「僕の天使マリ」、その曲中のワンフレーズについて、数年前からながいこと考えている。

私は、こちらに背中を向けたマリが肩甲骨を見せている情景を想像していた。
時刻は午後の23時ごろで、消灯した薄暗い部屋に差し込む街灯の明かりが、マリの背中の輪郭をなぞる。

マリは、背中に天使の証が刻まれているらしい。
私にとって、肩甲骨は翼。ふたつの逆三角形を搭載した胴体は、腰にかけてなだらかに狭まっていく。そうして描かれる曲線を綺麗だと思う。
イカロスを宙に浮かべたような、蝋の双翼を作るまでもない。人間はもともと翼を持っている。

それと、くびれ。肋骨と腹斜筋の連なりがかたどる緩急が好き。
他には、皮膚に盛り上がった腓骨の骨頭、三角筋から肘にかけて描かれる緩やかなカーブも良い。

人体には、両極端の要素が集約している。
背中に無垢の刻印がある一方で、正面の胸部には24本足の大蜘蛛が泰然と巣食っている。
ただ、胸郭のこの節足動物は、心臓を抱きしめるような形で上半身を独占しているから、優しい心の持ち主なのかもしれない。安心して心臓を任せられる。

マリの背中の羽根、タトゥーとか、ボディペイントの線もあるのか。その解釈は、楽曲の抽象度の高さを踏まえるとやや現実的な気もしますが、どうなのでしょう。
いずれにせよ、裸の背中がかもしだす内密な響き、官能的でロマンチック。

曲調は明るいのに、リリックは寂しがりやで、いつも胸がきゅっとする。大好きな曲。

久しぶりにモルフォ人体デッサン、たのしむずかし、
人体の造形美をおしえてくれた本。

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