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著作一覧と紹介(2024年2月現在)

そういえばこういうページも作っておいた方がいいかなと思い、過去の著作(単著・共著・共訳・寄稿)をまとめておきます。
雑誌系や論文は基本的に省いて、一般流通する書籍刊行物(本)に限ってますが、絶版なども含みます。リンクはちょっと迷いましたが、原則的に版元ドットコムに統一します。
新しい方から順に並べます。


2024年

11.『人類の会話のための哲学 ローティと21世紀のプラグマティズム』(よはく舎)

2019年に大阪大学大学院文学研究科(当時)に提出した博士論文「「文化政治」とプラグマティズム――リチャード・ローティの哲学史的評価をめぐって」をもとに、章単位での削除・書き下ろしと大幅な加筆修正を加えた一冊です。
ローティおよびプラグマティズム言語哲学研究の〈理論〉篇としては、ひとまずこれで一旦区切りをつける仕事で、上記の成立史からしても、これが私の「主著」ということになるかと思います。

分析哲学史、プラグマティズム史、メタ哲学、セラーズ右派左派論争、推論主義とその応用など、トピックは多岐に渡りますが、ローティを契機とする現代哲学のひとつの流れについて、そのアウトラインとエッセンスは書くことができたはずで、批判を含むその反響を待ちたいと思います。
出たばかりで、どのように読んでいただけるのかわかりませんが、ひとまずこの本を世に出せてよかったです。

10.『100分de名著 ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』』(NHK出版)

NHK「100分de名著」のテキストです。
ローティの代表作『偶然性・アイロニー・連帯』を読み解くために、その他の著作も縦横無尽に参照しながら、それによってたしかに成立するローティ哲学のひとつの像を示したつもりです。

「部数」という観点ではこの本以上に広く読んでもらえる本を書くことは(よっぽどの奇跡的なことがない限り…)ないと思いますし、内容的にもスタッフにも恵まれて、本当によい出来になっていると満足しています。
番組と合わせてもですが、もちろん単体でも読めるテキストですので、ローティに関心もたれた方にはぜひこの一冊から。
(そして、さらに学びを進めたい方は『人類の会話のための哲学』にどうぞ…!)

2023年

09.『バザールとクラブ』(よはく舎)

ローティの未邦訳論文「エスノセントリズムについて:クリフォード・ギアツへの応答」の翻訳とその解説からなる、60頁の短著です。
こちらは一般流通がやや限られているので、直販ECも貼っておきます。
コンパクトな本ですが、上記の通りそれなりにアカデミックな出自のものなので、ちょっと歯応えはあると思います。

表題の「バザールとクラブ」の比喩が登場する論文で、ローティの「エスノセントリズム(自文化中心主義)」がはじめて標榜されたという意味でも重要論文なのですが、副題にあるように人類学者ギアツとの論争という文脈を補わないと少々読み通しづらい論文で、これまで訳出が見送られてきた事情も斟酌できました。
当該論文ではほんの一瞬しか出てこない「バザールとクラブ(公と私)」の観点から、論文全体を読み解くという見通しを示した解説、なかなか面白く書けたのではないかなぁと思っているので、ぜひお読みください。

08.『〈公正〉を乗りこなす 正義の反対は別の正義か』(太郎次郎社エディタス)

こちらが初の単著でした。
ありがたいことに、この年の「紀伊國屋じんぶん大賞」13位、「MyDataJapan勝手表彰2023 Thought Leadership賞」、ときわ書房志津ステーションビル店が選ぶ「志津ノーベル賞2024人文学賞」などに選出いただいた本で、現時点での私の代表作、ということになるでしょう。

執筆した時期的には、2019年の博士論文の提出後からの数年間でしたので、『人類の会話のための哲学』を〈理論〉篇としたら、『〈公正〉を乗りこなす』は〈実践〉篇になります。
この本では、博士論文までの研究ではアカデミックに扱ったことはなかったジョン・ロールズとその『正義論』を中心モチーフに据えながら、あくまでローティおよびプラグマティズム言語哲学の観点から、「正義」「公正」「自由」などなどの「正しい言葉(理念に関わる概念)」の「本当の意味」ではなく「適度な乗りこなし方」を考える本です。
「人類の会話」というモチーフも継承していますし、現時点で書いたもののなかで、もっともアクチュアルな(現実に関わる、具体的な提言をともなった)一冊ですので、「100分de名著」で知っていただいた方には、ぜひお読みいただきたいなと思っています。

07.「「探求の共同体」を現出させるために リチャード・ローティのアカデミア論における「関心」概念を検討する」、総人のミカタ編『<京大発>専門分野の越え方:対話から生まれる学際の探求』(ナカニシヤ出版)

京都大学の総合人間学部(総人)での文理融合、専門分野を越えた学術的共同体をつくっていくとりくみ「総人のミカタ」の活動記録とその成果として編まれた本です。
私は招かれてシンポジウムに登壇しまして、その後のパネルディスカッションの記録も収録されています。どうしても一般には敷居の高い本に見えると思いますが、全編が「異質な他者と共に何かに取り組むとはどういうことか」という問いに貫かれていて、若者たちの活動のドキュメントとしても読める一冊です。

私が寄稿したのは、ここでもローティ論。ローティの「関心」ということばの使い方を掘り下げながら、学術的な「探求の共同体」とはなんだろうか、ということを考えました。気に入っている論考です。

06.谷川嘉浩・朱喜哲・杉谷和哉『ネガティブ・ケイパビリティで生きる 答えを急がす立ち止まる力』(さくら舎)

こちらは2023年2月に刊行された、哲学者・谷川嘉浩さん、公共政策学者・杉谷和哉さんとの「若手」研究者三人の鼎談本。
鼎談本(対談本)は基本的に登壇者のネームバリュー前提で作られるものですので、「え、そんな企画通るの?」とちょっと驚きましたが、谷川さんリードで実現した一冊でした。(その後、杉谷さんと私も単著やメディア露出が進み、ある意味では後付けで「気鋭の若手研究者三人の鼎談本!」と煽っても虚偽ではないレベルになってきたかなと思います。)
お二人とは、前掲の京大「総人のミカタ」経由でよく話すようになり、定期的にお酒を呑んで会話や議論をする仲ですが、毎回とても楽しく、それをそのまま活字にできたような本です。
標題「ネガティヴ・ケイパビリティ」とは、「答えを急がず立ち止まる*力*」のこと。この本は、この概念を説明したり、ノウハウを直接的に伝達するものではないかもしれませんが、まさに「答え」のない現代社会のさまざまな問題について、決して短絡的な「答え」に飛びつかず、三人でぐるぐると会話を派生し続けていくその姿を通じて、「ネガティヴ・ケイパビリティ」がどういうもので、どんな魅力があるのか実演されているような本じゃないかなと思います。
私もマーケティングから時事ネタまで、幅広く話しているので、よろしければ過去のものになりすぎないうちに、お読みいただければおもしろいかと思います。

2022年

05.稲岡大志・長門裕介・森功次・朱喜哲編著『世界最先端の研究が教える すごい哲学』(総合法令出版)

哲学、いや少なくとも分析哲学界隈では唯一無二の商業哲学雑誌『フィルカル』を長らくいっしょにやってきたメンバーと編者に連なった総勢51編の「最新の哲学研究」を平明に紹介するオムニバス論集。
人文書好きには眉をひそめられそうな煽り強めのタイトルと表紙ですが、中身についてはわりと「ガチ」というか、多くの初期キャリア研究者たちに声をかけ、それぞれの研究サーベイのなかから渾身の「ひとネタ」を寄せ合ってもらいました。
「哲学っぽいこと」ではなく、「同時代の哲学者がじっさいにやっていること」を知るにはうってつけの本だと思いますので、よろしければぜひ。

私は著者としては「「虐殺の文法」を解明する?」と題した五頁の一編を書いています。これは「100分de名著」第3回や『人類の会話のための哲学』第七章で紹介したリン・ティレル「虐殺の言語ゲーム」論の、もっとも平明な紹介になっていて、短いながらも気に入っています。

04.「道徳的価値の探究 「基礎づけ」なき時代の道徳教育はいかなる足場をもちうるか」、岸本智典編著『道徳教育の地図を描く:理論・制度・歴史から方法・実戦まで』(教育評論社)

(版元ドットコムに見つからない&版元サイトだとサムネが出ないので、Amazonです)
こちらは出版年は前後しますが、『〈公正〉を乗りこなす』第三章での「道徳教育」批判のもとになったWeb連載を読まれて、声がかかった論集でした。
編著者の岸本智典さんは古典的プラグマティズム三傑のひとり、ウィリアム・ジェイムズの研究者で、教育哲学もご専門とされています。岸本さんも含めほぼ教育学分野に(何らかの意味で)軸足がある方が著者に名を連ねるなか、「道徳教育の基礎」を否定的に考える論考を、第一章として書かせてもらいました。

内容的には、「100分de名著」第3回・第4回で引用もしたローティの「人権基礎づけ主義」批判で知られる論文「人権、理性、感情」(『人権について』(みすず書房)収録)での批判について、その矛先が向けられているアラン・ゲワースの「人権基礎づけ主義」もていねいに読み直しながら、ローティの批判を論証として再構成し、ゲワースの問題点を明確化するものでした。
その上で、やはりローティの診断に同意し、では「基礎づけなき」道徳教育をどう考えるのか、ロールズ「正義感覚」論に依拠しながら検討しました。
これは(とくに前段は)地味に大事な仕事ながら、英語圏も含めてちゃんとやってた人がおらず、査読論文などに回してもよかったかもしれないと思うネタでしたが、この本に寄稿できて満足しています。

2020年

  • ロバート・ブランダム(加藤隆文・田中凌・朱喜哲・三木那由他訳)『プラグマティズムはどこから来てどこに行くのか』(原著Brandom、*Perspectives on Pragmatism*、HUP、2011)、勁草書房、2020年


03.ロバート・ブランダム(加藤隆文・田中凌・朱喜哲・三木那由他訳)『プラグマティズムはどこから来てどこに行くのか』(勁草書房)

2021年は刊行物はなく(論文等は複数あり)、2020年は10月に刊行されたこの翻訳書にかかりっきりになっていました。原著は、Robert Brandom, *Perspectives on Pragmatism*, HUP, 2011.

『人類の会話のための哲学』ではローティに続く出番をお願いした、ローティの愛弟子であり、現代のプラグマティズム言語哲学の第一人者であるロバート・ブランダムの「プラグマティズム」関連論集の全訳になります。
勁草書房の「現代プラグマティズム叢書」シリーズの第二弾として刊行され、同シリーズ第一弾のシェリル・ミサック『プラグマティズムの歩き方』の訳者である加藤隆文さんの呼びかけでチームに加わりました。
ミサックは『人類の会話のための哲学』第一部での「相手役」であり、ブランダムは第三部はもちろん、ほぼ全編にわたって登場するので、これらの翻訳を進めた時期の学習が形になったのが、『人類の会話のための哲学』とも言えるかもしれません(ミサック本については翻訳には直接的には貢献してないですが…)。

担当しているのは、もちろんというべきか、ブランダムのローティ論にあたる第四章と第五章。どちらも下巻に収録されています。
『人類の会話のための哲学』でブランダム(とそのローティ論)に関心をもたれた方には、ぜひ手を伸ばしてほしい翻訳書です。

2019年

02.「アカデミアと地続きにあるビジネス」、荒木優太編『在野研究ビギナーズ』(明石書店)

この年の三月に博士論文が受理され、博士(文学)になった年。
ある意味でちょうどよいタイミングで、博士号取得までのキャリアをふりかえるような原稿依頼をいただき、ありがたいことでした。
まして、この『在野研究ビギナーズ』は(著者たちの予想に反して…)重版が相次ぎ、この年の「紀伊國屋じんぶん大賞」3位に輝くというヒット作になり、おそらくですが、書き手・研究者としての私の存在を、この本で知ったという出版関係者の方は少なくないのでは、と思います。
また、編著者の荒木優太さん、共著者では工藤郁子さんをはじめ、いまさらにご活躍されている方たちといっしょに仕事をすることができ、現在に至る交流の契機になったという点でも、印象に残る一冊です。

本文で書いたように、私自身は「在野」かというと微妙(少なくとも科研費をいただき、大学にも「招へい」の身分とはいえ在籍している)ですし、そもそも「在野」⇆「在朝」という区別に懐疑的ですが、そうした立場から見てきた景色や考えについて、キャリア変遷の事実に即して記した文章で、周囲からも「読みやすかった」「おもしろかった」と言ってもらえて安心したことを覚えています。
私のキャリアに関心のある方には(そして「さまざまな場所」で研究を続けていきたいと思う方には)、今もってもっとも推薦できる本ではないかと思いますし、ぜひお手にとってみてください。

2018年

01.和泉悠・朱喜哲・仲宗根勝仁「ヘイトスピーチ 信頼の壊しかた」、小山虎編『信頼を考える』(勁草書房)

共著論文集の、さらに共著論文ですが、著者として「本」に名前が載ったのはこれが初ということになるはずです。
『人類の会話のための哲学』第七章でも、和泉悠さんと仲宗根勝仁さんのお名前は挙げましたが、大阪大学の哲学専修の同輩(同門)という縁もあって、断続的に「ヘイトスピーチ」を含む言語のダークサイドについての言語哲学研究を共同でとりくんだりしている研究ユニット(?)です。

私が2014年に博士後期課程に戻ってちょっとした2016年とか、それくらいからは活動していたはずで、2017年4月に応用哲学会のシンポジウム「ヘイトスピーチと信頼」でも共同で登壇していました。
哲学だと「共著論文」「共同研究」は珍しいと思われる方もいるかもしれませんが、言語哲学分野だと決してそんなことはないですし、とくにこのテーマのように繊細な取扱が求められ、かつ社会的な関心も重要になってくる話題をめぐっては、個人でやるよりも、チームでやった方がパフォーマンスがよい、ということは体験からも思います。


…ということで、のべ11冊(24年2月現在)の「著書」紹介でした。
この先どうなるかわかりませんが、ひとまずちょうど博士論文を提出した2019年前後に本を出すようになり、そこから五年越しに博士論文をもとにした『人類の会話のための哲学』が公刊されましたので、節目ということで、ふりかえってみました。

現在では絶版状態などで入手困難なものもあるのですが、どれか関心をもって手を伸ばしていただければたいへんうれしいです。


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