【詩】東京
お元気ですか
こちらは元気でやっています
相も変わらず万年筆を握る毎日です
そちらでは初雪が降ったと聞きました
寒さに弱いあなたが風邪をひいていないか心配です
最近担当が新しく若い青年に変わりました
随分と熱心で少々熱苦しい気質ですが
彼の目の輝きはどこか昔の私を思い出させます
先日彼と酒を酌み交わしながら
互いの思想と未来について語らいました
彼はやはり熱心で
溢れんばかりの文学を愛する心を
私にずっと話して聞かせてくれました
どうやら私はこういう気質の人間に真っ向好かれる者らしいと
何人目かの担当を前にしてようやっと気付きました
そういえばいつかあなたも私に
私の未来を熱心に語ってくれましたね
夏の暑い日にあの大きな洋館の前のバス停で
文学を愛するあなたが
私の生み出す言葉の数々が好きだと
そう言ってくれましたね
真っ白の原稿に向かい行き詰まった時
時折あなたのあの言葉を今も思い出すのです
あの頃よくあなたと私で
どちらが沢山の本を読破したか競い合ったものですね
隣で熱心に本を読むあなたの横顔を今でも覚えています
今もまだ変わらずあの図書館に通っているのでしょうか
久しぶりにあそこに訪れたいと最近毎日思うのです
あの静かな空間の中で
万年筆を走らせながら
またあなたの横顔を眺めたい
東京で初雪が見られるのはまだ先でしょう
そちらの冬はこれからより一層冷え込みますので
くれぐれも体にはお気をつけて
あなたはすぐに風邪をひいてしまいますからね
どうかまた会う日までお元気で