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続 心の風景 言葉が醸し出す情景
随筆は書き手の人柄がストレートに出るから面白い。たとえ脚色して書かれていても、その人の周りに漂う空気がどんなものかを感じ取ることができる。
夏目漱石の門下生で、芥川龍之介とも親交のあった内田百閒という人は、おかしな人である。
本人曰く、長い教師生活で、生意気な学生たちから舐められないように教壇から学生を睨み付けた習慣が抜けず、いつでもどこでも口を「へ」の字に曲げ、相手を威嚇するような目つきで睨み付ける。毎日何でもないことにいちいち腹を立てながら、ドクダミを噛み潰したような顔で、日を暮している。
一年近く住み続けている宿屋の女中にもそんな態度を取り続けているため、彼女たちは百閒さんの癖を承知しているので平気でやり過ごすのだが、百閒さんの方が、ちっともくつろいだ気分になれないでいる。
友人の借金のために自分が右往左往させられ、そのために高利貸しの家を訪ねたつもりが、同姓の別人の家へ行ってしまい、しかも上がり込んでコーヒーまでごちそうになってしまう。
50銭銀貨を土間に落としてしまい、一生懸命に探すがどうしても見つからないでイライラしているうちに目が覚め、夢だったことが分かったにもかかわらず、落とした50銭がどうにも惜しくて不機嫌になったりする。
無闇に他人を使う癖があり、自分が手を伸ばせば取れるものでも、他人に取らせるようなことを平気でやってしまう。
盲目の友人との会話中、友人の後ろにある女中呼び出し用のボタンを押させたりする。
相手がだれであろうと、自分の用事に使ってしまう。
そうかと思えば、その盲目の友人の手を引いて、ぶらぶらと町の中を歩く。顔中髭だらけの大男が、盲人の手を引き歩く姿を、すれ違いざまに変な顔をして見送る者がいても百閒さんはまったく気にしない。用事のなさそうな野良犬が一匹、しばらく二人の後について歩いていたけれど、そのうちにつまらなそうなあくびをして横町へ外れてしまった。という話。
あるいは電車で百閒さんが座っている前に、赤ん坊をおぶった若い母親が後ろを向いたまま吊革につかまって電車が揺れるたびに、よろけそうにしている姿を見て、自分も長い間立って疲れていたにもかかわらず、その母親に席を譲ろうとして立ち上がり、母親の背中をたたいたつもりが赤ん坊を突っついてしまい赤ん坊が泣きだし母親が怪訝な顔で百閒さんを見上げた時、百閒さんが「後ろの席にお掛けなさい」と言おうとする間もなく、近くに立っていた五十余りの老婦人がその席に座ってしまう。バツの悪くなった百閒さんは黙って母親から離れて吊革につかまるしかなかった。母親の背中では、赤ん坊が大きな声で泣きたてていた。という弟子の目撃談もある。
不器用で、ぶっきらぼうで、偏屈で、我儘で、お人好しの百閒さんの魅力に取りつかれてしまった。
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