赤ちゃんのいたお部屋
『ここに確かに赤ちゃんがいたんだよね…。』
空のベビーベッドを眺めて1人で呟く。
一年前のことでさえも今となっては夢のようで。
妊娠中からねんね期までよく聴いていたオルゴールをかけると、気持ちと空間だけが現実を置いてその時に戻っていく。
目の前にはもうベビーベッドで寝なくなってしまった少し大きくなった次男。
いよいよ明日がベビーベッド返却日。
ベビーベッドには4歳の長男のお気に入りのクマが置かれている。幼稚園へ行っている間もベビーベッドに想いを馳せているのだろう。本人は留守なのにまるで本人がいるみたいだ。遠くからでもベビーベッドへの想いを感じる午前。
陽だまりの中、次男のねんねのお時間に。
「ねんねしていいんだよ。」
『あの時』と同じようにオルゴールをかけ、おっぱいをあげながら頭を撫でた。
嬉しそうに目をぎゅっとつぶった次男。あの頃に比べれば大きくなってしまったけれど、まだまだふわふわしている。「可愛いねぇ…」と呟いて優しく優しく頭を撫でた。甘い赤ちゃんの匂いもほのかにする。
ベビーベッドでの最後のお昼寝。
暫くベビーベッドでは寝ていなかったね。
久しぶりのベビーベッドでのおねんね。
次男をゆっくりゆっくりベッドまで運んでそーっとそーっとベビーベッドへ下ろした。
こうやって何度も寝かせたね
失敗して泣かれたりもしたけれど
寝かせた後の柵から覗く可愛いお尻と足の裏を見るのが大好きだった
そしてそこから香る甘いおっぱいの香りと可愛い寝顔も大好きだった
優しい空気
あたたかい空間
赤ちゃんのいる空間
赤ちゃんのいたお部屋
この光景も今日で最後。
空間ごと、香りごと心に刻もう。