「法螺噺 アオイトリ」について
※本記事はいち舞台好きの、あくまで素人の感想です。
また、ネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。
「絶望」の雰囲気
まず舞台全体において印象的だったのは、開幕から苦しいくらいに展開され続けていた「絶望」の雰囲気である。
開幕から終盤にかけて、みちると母親、兄の痛々しい関係、いじめ、そして「妄想」と現実パートを経て、狂気が振り積もっていくような構成が展開され続けていた。
これに伴って、最初は現実から目を背けていただけだったみちるも、徐々に傷害事件→自殺未遂と、現実に押しつぶされていた。何より、本舞台を観ていた私も同じようなプレッシャーを感じていた点が凄い。真綿で首を絞められているような、ジワジワとした黒い絶望がみちるとシンクロしているようで、とても強い没入感を覚えた点が印象的だった。もう引き返すことのできない不可避の絶望が非常に気持ち悪く、この雰囲気こそが本舞台の魅力を大きく底上げしていたのかもしれない。…と、この記事を書いていてヒシヒシと感じています。
「皮肉」と「青い鳥」
さて、舞台終盤でも言及されたように、本舞台の起承転結は(オープニング)「美しさ」「愛」「自由」(エンディング)の3+2つに大別されていた。その中でも、中の3パートに「皮肉」が綺麗に込められていた点、同時に、常に傍には「青い鳥」が居た点が面白かったと思う。
それぞれ順番に、
美しいが故の悩み→作中では「美しくない」とされていたみちるにも母親やあきらなど、傍にいてくれる人はいたこと
愛されたいのに愛されない→自分が理想とする愛だけではなく、愛には様々な形があること
仮面を被って本音が言える→建前であってもそれは真っ赤なウソではなく、もう一つの本音だということ
のような描写があった。
…と分かった風な書き方をしてしまったが、これはあくまで私が感じた「青い鳥」に過ぎない。鳥に正解はない。「ふと鳥かごを覗いたら~…」と劇中で示唆された通りだと思うし、カーテンコールでクドア役の花岡芽佳さんが仰っていた「幸せって色んな形があると思うんです」という感想が深みを帯びているように思う。(さすがは推しが書いた脚本だなぁ…!素敵だ…)
「母親」/「ギャス」+千歳まちさんについて
毎回違う表情を見せてくれる私の推しは、本舞台でも最高に輝いていた。否、輝いていないからこそ凄かった。
まず「母親」について。
この役の千歳さんの凄みは「陰」にあると感じた。今までの千歳さんの役は、華やかさや明るさが印象的な役が多かったように思うし、これを表現できる点がまちさんの大きな魅力の一つだと思う。そんな中で、今回の母親は哀しいくらいに切実でリアルな「陰」を纏っていた。
普段はまちさん演じるキャラクターが舞台に上がる度に顔が緩んでしまう私も、今回に限っては「本当にまちさんなのか…??」と感じるほどに、顔が、立ち振る舞いが「陰って」いた。
実はまちさんのそっくりさんが演じていました!と言われても信じかけてしまうほどに、全く新しいまちさんの演技の幅が見られてとても嬉しい。
次に「ギャス」について。
感想は一つ。すごく楽しそうで、見ているこちらも笑顔になった…!!
ディズニー世界の住人を連想させる、一貫して明るくド派手なキャラクターだった。
前述の通り、私はみちると共に「絶望」を感じ続けていたので、この「愛」パートでのギャスはとても楽しく、ある種の箸休め時間になった。人形たちを溺愛するギャスの姿は確かに狂気を感じる部分はあるものの、短い時間でとても元気を貰えた素晴らしいキャラクターだった。
(ギャスさんにはもっと大きなベッドを買ってもらって、人形みんなで一緒にご主人様と寝られる世界が来るといいね…!)
(「ときステ」以来の2ショットチェキの場で久々にお話出来て、本当に嬉しかったです!これからも変わらず応援しています!)
「あきら」/「オニキス」+鶴田葵さんについて
以前、別の舞台を観劇した際に強く印象に残った方である鶴田さん。
本舞台を経た後、気づいたら本格的に好きになってしまっていたほどに魅力的な演技をされていた。
まずは「あきら」について。「妄想」パートの住人が濃かったためか、現実世界のキャラクターであるあきらは比較的目立たない……かと思いきや決してそんなことはなく、むしろ別のベクトルで恐ろしく魅力的なキャラクターだったと思う。
序盤の「私ってズルいよね…」というセリフが本当にズルく、(友達同士で板挟みになっているんだなぁ…可哀想に…)と感じたはずが、中盤のいじめの描写で評価がひっくり返る。(「あきらも迷惑がってたよ!」といういじめっ子のセリフなど)
しかし終盤、屋上でみちるを𠮟りつける場面は非常に思いやりを感じさせる描写であり、あのフレーズだけで今までのあきらへの疑念が一変する……という、常にみちるの心を揺さぶり続けるようなキャラクター性が素晴らしかった。
まとめると、無自覚の人たらしである「あきら」は、鶴田さんの顔の良さと演技力が掛け算されて初めて成立するキャラクターだなと感じた。
次に「オニキス」について。宝石店の下りでミチルに「お姉さん、とっても綺麗だよ!」と褒められるものの、「…さよなら」とその場を後にするシーンが印象的だった。
この時のオニキスの表情からは驚きや忌避感、悲しみ…など、一筋縄ではいかないであろう過去がなぜか感じ取れてしまう。この背景には簡単には触れられない「何か」がある…。
比較的短い出番ながらも、オニキスの存在感は決して薄いものではなかったと思う。
(「アンビシャス」の舞台から気になっている方だったので、チェキの場で初めてお話させていただいてとても嬉しかったです!あまりの緊張でノゾミさんのお名前を「西園寺さん」と間違えてしまいました。申し訳ありませんでした……)
おわりに
大変な情勢の中でも素晴らしい舞台を作って下さったキャスト及びスタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。
素晴らしい舞台をありがとうございました!