オキマリの大切さ
我が家の子供たちが通った(娘は現役だが)
保育園は神社に併設されている。
園長先生はその神社の一家の方らしいが、
特に教育に宗教色が入ることはなく、
毎日送り迎えをしていると
そこが神社であることを忘れてしまうほどである。
だが、神社なのだと感じさせられる機会が
年に数回訪れる。
一つは祭りのシーズンである。
大きな旗が出て、祭りの雰囲気が出てくると
何だか神社らしく感じるようになる。
次は年末年始。
当然神社なので初詣の方に向けた
準備が進むのと、
1月になると”とんど”の準備がされるので
それを見ていると神社らしいなと
感じさせられる。
だがこれらは正直子供たちにとっては
あまりピンとこないものばかりである。
この神社は我が家の氏神様ではないので
ここで”とんど”に参加することもないし、
私の家から保育園までは微妙に距離があるので
我が家の子供たちは夏祭りや秋祭りに参加したことがない。
だが、唯一子供たちが神社であることを
実感できる機会が年に一度ある。
それは七五三である。
七五三というと子供が綺麗な服を着るイベントの様に
思われがちだが、
本来は子供がこの歳まで生きられたことを
感謝するイベントである。
ここは神社に併設された保育園ということもあり、
毎年11月の後半にこの保育園では
全園児に対して神社がご祈祷をしてくれるのだ。
だが、子供たちがこのイベントで楽しみにしているのは
決してご祈祷ではない。
終わった後にもらえる千歳あめを
楽しみにしているのだ。
今は10歳になった息子であるが、
彼が0歳で入園したときから毎年この時期になると
紅白の千歳あめを持ち帰ってきていた。
今年は娘が年長さんなので
我が家にとって10年続いた定期千歳あめは
最後の年となる。
今年もそろそろかなと思っていると
一昨日娘が保育園からいつもの袋を
持ち帰ってきた。
中には赤と白の飴が入っている。
車の中で食べたいと言っていたらしいが
家に帰ってからと妻がとがめたので
家に着くなり早々に飴の袋を開けて
食べ始める娘。
なんだかこの様子を見ていると
ふとある年の風景を思い出した。
それは今から5年前。
息子が年中の年だったが、
その時もこの千歳あめを持ち帰った息子。
今年長になった娘と同じように
すぐに食べたがったのだが、
間もなく夕食というタイミングだったので
今はやめて明日食べなさいと妻は言ったそうである。
しぶしぶ了承した息子であったが、
そこから数分すると息子の姿が
リビングから消えていた。
普段一人でどこかに行くことなどないので
一瞬ヒヤリとしながら、
二階の部屋に行ってみると
部屋の片隅でこっそりと千歳あめをなめている息子がいた。
すぐに「何してるの」ということもできたのだが、
なんだかそこまでして千歳あめが食べたかったのかと思うと
すぐにとがめてやるのもかわいそうな気がして
私は5分ほど気づかないふりをしてから
息子に声をかけた。
何とも言えずバツの悪そうな顔をする息子だが、
5分以上舐めていたおかげである程度食べることが
できたようである。
このエピソードを私が妻に話すと
妻はこっそりと部屋の片隅で千歳あめを食べる
息子の姿を想像すると何だか面白かったらしく
爆笑し始めた。
そして、この話は毎年この時期になると
我が家で必ず話題に上がるようになった。
最初数年は「もう恥ずかしいからやめてよ」と
息子は笑いながら言っていたのだが、
今となってはオキマリのネタになってしまい
自ら妹に「2回でこっそり食べんときや」などと
言うほどになった。
こうして振り返ってみるとこのオキマリの流れは
我が家にとってかけがえのない宝だと思う。
私達は旅行に行ったり、新しいものに出会ったとき
喜びを感じる生き物でもあるが、
実は日常の中の何気ない”オキマリ”の中にも
幸せが沢山詰まっているものなのである。
そして、その”オキマリ”は何も特別なことではない。
風呂から上がった後に行われる歯磨き攻防や
から揚げを食卓に出した時に行われるつまみ食い、
そんないつもの光景の中にも沢山潜んでいるものなのだ。
特別なことをしたからと言って人は満たされるものはないし、
特別なことなど結局一瞬で終わる打ち上げ花火に過ぎない。
それならば、日常で繰り広げられる小さな線香花火を
味わうほうがずっと幸せにいられるのではないだろうか。
千歳あめを嬉しそうに舐める娘と
それをイジる息子を見ていると
何だかそんなことを感じさせられた。
仮に今ここで人生が終わったとすれば
私はこの子供たちのやり取りを思い出しながら
”悪くない人生だったな”と思うであろう。
これからも子供たちが大きくなり
無くなっていくオキマリもあれば
新たに追加されるオキマリがあるだろう。
そんな一つ一つのオキマリを
これからもしっかりと味わっていきたいと思う。
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