「~しなければならない」から解放する日
昨日は久々に何もない日であった。
厳密にいうと息子のサッカーの試合があったのだが、
微妙に鼻かぜが残っている様子だったので
それを休ませたのだ。
こういう日はなぜか大抵子供たちは
早く起きてくるものである。
私がリビングで作業をしていると
6時ごろには子供たちが起きてきた。
朝食を作り、子供たちに食べさせると
なぜか二人して漫画を読みだした。
時々彼らは読書のスイッチが入るが、
偶然昨日は朝からそれが入ったらしい。
しばらくすると妻が起きてきたので、
妻の分のホットサンドを作って
テーブルに置いていると
何だか娘がもの言いたげな顔で私を見る。
どうしたのか尋ねると、
自分用に食べたホットサンド1個だけでは
食べたりなかったらしい。
妻が自分の分を半分娘に渡すと
娘は満面の笑みでそれを頬張り出した。
いつもホットサンドを作る時には
「私はチーズだけ入れて!」と念押しをするのに、
色んな具が入った妻の分も美味しそうに
娘は食べている。
「あれ?チーズのしか食べんのじゃないの?」と
私が聞くと、
「ごめん、パパ。これも美味しかった」という娘。
彼女の舌も少し成長したということだろうか。
そんなことを思っていると、妻が突然家族で隣町まで
出かけようと言い出した。
昨日も出かけたばかりなのに、
なぜ再び行かねばならないのか?と
妻以外の3人の頭に?マークが浮かんだ。
どうやら昨日家族で行った雑貨屋で購入した
縫いぐるみに不具合があったらしく、
それを返品に行きたいのだという。
どういうわけか妻は何でも家族で行こうとしたがる。
例えその用事が明らかに妻にしか関係がなくて
我々3人は全く関係がないイベントだとしても
妻は家族で行きたがるのだ。
今回この縫いぐるみを買ったのは妻で、
返品に行くだけならば一人で行けばいいのに、
なぜ家族で行かねばならないのか。
そう反発する子供たち。
我が家の子供たちは基本的に出不精である。
休日も家でゆっくりしたいタイプなのに
家族で出かけてしまうとそれができない。
しかも、家族で出かけると言っても
息子と私は妻の買い物などに付き合うだけなので
唯々興味のない店内をぐるぐると
回り続けるだけになってしまう。
昨日一回行っただけでも辛かったのに
返品だけとはいえ、あの雑貨屋で
退屈な時間を過ごしたくない。
そんな風に思ったのだろう。
息子の強い反発もあり、
結局妻が一人で店まで返品に行くことになった。
妻が出発した後、子供たちはなぜか
外で遊ぼうと言い出した。
娘は最近マイブームのホッピング、
息子はサッカーの練習をするという。
私は見ているだけでは退屈なので、
竹刀で剣道の素振りをすることにした。
昨日は気持ちのいい日差しで暑いぐらいだったので
3人で軽く汗をかいていると、
ホッピングをしていた娘がふと動きを止めて
庭先を見つめだした。
どうしたのかと思い、そこを見てみると
茶色いコカマキリがいた。
我が家の庭ではバッタやコオロギはよく見かけるが、
カマキリを見かけたのは初めてである。
早速虫かごにこいつを入れて子供たちと
監察をしてみることにした。
せっかくなら何か動きがあるほうが面白いので
花壇を掘り返してハナムグリの幼虫を獲り
虫かごに入れてみることにした。
「パパ、そんなん入れても食べんって」
半信半疑な子供たちであったが、
丸まっていた幼虫が虫かごの中で
うごめきだしたとき、
カマキリが驚くような速さでそれを捕まえ
見事に食べ始めた。
その様子を見た子供たちは興奮である。
これまでも本などでカマキリが捕食するシーンは
見たことがあるが、
実際に捕食している様子は初めてだったらしい。
小さな幼虫をあっという間に食べ終わったカマキリは
カマを舐めてメンテナンスをし始めた。
すると息子と娘が近くの空き地に走って行った。
何かを思いついたらしい。
数分待っていると、
息子が息を切らせながら何かを持ってきた。
小さなバッタを捕まえてきたらしい。
早速そのバッタも虫かごの中に入れると、
ピョンピョンと跳ね回るバッタに
カマキリは早速反応した。
そして、バッタが虫かごの端にとまった時、
再びカマキリは驚くような速さでそれを捕まえ
捕食し始めたのである。
この様子に再び興奮する子供たち。
そうしてしばらくカマキリを観察した後、
一旦家に入って近くのスーパーに
買い物に行くことにした。
昼食を作ろうにも食材がほとんど何も
なかったからである。
日ごろスーパーに行きたがらない子供たちも
「お昼ご飯好きなもんにしてやるから行こうぜ」
というと喜んでついてきた。
スーパーを一通りぐるりと見回ると
子供たちも何を食べたいのか決まったらしい。
それを作るための食材を買って
店を後にした。
帰ってから早速料理をしてお昼を食べると
自分のリクエスト通りのメニューに満足そうな子供たち。
少し休んでから午後も玄関先で子供たちと
キャッチボールやサッカーをしながら遊び、
外が暗くなり始める頃には
風呂を沸かして子供たちを先に入らせた。
もう夕食を作り始めなければならない時間だが、
何だかアイデアが浮かばないので、
冷蔵庫にある食材だけで鍋にすることにした。
出汁に味付けをしてぐつぐつと食材を煮込む間、
私も風呂に入ることにした。
別に遠出をしたわけではないし、
何か特別なことをしたわけではないが、
体には適度な疲労感と満足感のようなものが
残っているような気がした。
そして、心なしか子供たちも同じように
何だか満足感があるように感じられた。
いつも休日は子供たちの習い事で
大抵「~しなければならない」に縛られているが、
昨日は全くこれらの縛りがない一日だった。
これは習い事をしている子供たち本人にとっても
それに連れていく私にとっても
大きな解放感をもたらした。
普通解放感を味わったなら遠出をしたくなりそうな
ものであるが、
私たちはその解放感を家で味わうことにした。
そして、その結果家にいながらも
色んな経験をして満足感を得た。
たまにはこういう一日を持つことは
大事なのかもしれない。
平日は嫌でも学校や仕事で
「~しなければならない」の鎖に
ガチガチに縛られてしまう。
休日ぐらいは自分を縛らずに
自由に動ける一日があってもいいのではないか。
風呂に入りながらそんなことを思った。
風呂から上がると鍋はいい感じに煮詰まっており、
うどんを入れて食卓に出すと、
子供たちの歓声が聞こえた。
熱いうどん鍋をハフハフとすする子供たちの様子に
密かに目を細めながら、
あえて習い事を休ませてこういう日をたまには作ろうと
改めて思った私であった。