眠れないほど面白い繊維の話(T/C編)
noteで書こうと思っていたネタは
スマホのメモに並んでいる。
どれもそれなりに話が広がりそうな
ネタばかりなのだが、
どうにも今日はそれらについて
考えながら書くのが妙に辛い。
私は毎年4月の後半ごろから
何となく体調が悪くなり、
5月末ごろまでずっとその状態が続く。
どうやら暑いと感じる日が増えてくるに従い
自律神経が乱れがちになるようである。
そのせいか、なぜか今日は頭があまり
回らない朝なので
ちょっとした小ネタを書こうと思う。
小ネタと言っても私はお笑いの専門家ではない。
繊維関連の仕事を新卒からずっとしてきたので
ある意味繊維の専門家である。
なので今日は繊維に関する話がテーマになる。
とは言え、読んで下さる方に関係のないテーマでは
申し訳ないので、
今日のテーマは「T/C」について書こうと思う。
「おいおい、そんな言葉聞いたことないぞ」
「私に何の関係もないじゃない」
そんなお叱りの声が聞こえるようであるが、
もう少しお付き合いいただきたい。
T/Cは決して私たちに関係のないものではないし、
むしろ身近なものを探してみると
必ず目にするような素材なのである。
そもそも「T/C」とは何?
先ほどからT/Cと当たり前の様に書いているが
読み方としては「ティーシー」となる。
「そんな名前の繊維を聞いたことがない」
そう思われるのは無理もない。
このT/CとはTとCが混ぜ合わされたものという
意味だからである。
T/Cと表記しておきながら
Cから説明するとTが怒りだしそうだが、
まずはシンプルなCから説明すると、
これはCotton(綿)のCである。
綿については説明するまでもないだろう。
綿花の種子周辺に存在する綿状のものを
取り出してほぐし、紡いだものが
私達が良く知っている綿の糸や生地である。
では相方となるTは一体なにかというと、
Tetoron(テトロン)の頭文字Tである。
実はこのテトロンというのは東レの商品の
商標であり、
いわゆるポリエステルのことを指す。
つまり、T/Cとは綿とポリエステルが
組み合わされた繊維のことを指すのだ。
一見するとただ違う繊維を組み合わせただけの
そんなに面白くない事象に見えてしまうだろう。
だが、ふたを開けてみると思わぬ面白さが
そこにはあるのだ。
混紡とは何か?
この話を進める際に避けて通れないのが
混紡の話である。
混紡(こんぼう)という言葉は一度はどこかで
聞いたことがあるようだが、
イマイチピンとこない言葉であろう。
混紡とはその漢字が示す通り
異なる繊維を混ぜて糸に紡ぐ方法である。
だが、ここで一つの疑問が生じる。
綿は植物から取るものだが、
相方のポリエステルは化学製品。
これらをどのように混ぜて紡ぐのだろうか。
実はこの答はとてもシンプル。
ポリエステルを綿と同じように
短く、縮れた状態でカットし、
それを綿と混ぜ合わせて綿糸と同じような感じで
紡いで糸にするだけなのだ。
ポリエステルはプラスチックなので、
縮れを作ったり、繊維の長さを調整することは
簡単にできてしまう。
その反面綿は天然物なのであまり形状に
融通は利かない。
なので、ポリエステルが綿の形に合わせることで
スムーズに混ぜ合わせることができるのだ。
だが、それだけ聞いても「ふ~ん」となって
終わってしまうだろう。
なので次はT/Cにどんなメリットがあるのかを
ご説明しようと思う。
T/Cのメリット
先ほども書いたようにT/Cは天然繊維と化学繊維を
組み合わせたハイブリッド繊維だが、
この両者を組み合わせることで
一体どのような特性が付与できるのだろうか。
①吸水性
ハンカチやタオルなどで経験したことがあるように
綿という素材はとても水をよく吸う素材である。
その反面、ポリエステルは繊維単体としては
水を吸わない素材。
なので、ポリエステルをマイクロファイバー化して
その毛細管現象を活かして吸水させるような商品が
世の中には存在しているが、
正直いくら加工したとしても綿の吸水性には
遠く及ぶことはない。
だが、この両者を組み合わせると
綿の圧倒的な吸水性が活かされるのだ。
しかも、一緒に組み合わされたポリエステルは
水と相性があまり良くないので
脱水などの物理的なエネルギーで
簡単に水を手放してしまう。
スポーツで使うゼッケンが水を絞ると
瞬く間に乾くのは100%ポリエステルで
作られているからである。
つまり、洗濯時に脱水効率が非常によく
綿100%よりも圧倒的に乾燥しやすくなるのだ。
綿とポリエステルの良いところを
上手く補い合うことで
吸水性と乾燥性を両立した繊維と言える。
②シワになりにくい
綿100%のカッターシャツやブラウスは
涼し気で清潔感があってとても素敵だが、
着たり洗濯をしたりすると
必ずといっていいほどシワができてしまう。
これは綿の特性であるが、
その反面ポリエステルはシワになりにくい特性がある。
(巷にある形状記憶ワイシャツはほぼポリエステル製)
この両者を組み合わせると綿100%に比べて
圧倒的にシワになりにくい繊維になるのだ。
これもまさに両者の特性をうまく組み合わせた
一つの事例と言えるであろう。
③コストが安定する
ここでT/Cの特性としてご紹介すべきか
悩んだポイントではあるが、
一消費者としてはコストはとても
大事な要素である。
何だか異なる素材を組み合わせると
コストが高くつきそうな気がしてしまうが、
実はそんなこともない。
ポリエステル自体は繊維の中でも
最も沢山使われている素材の一つで
大量に生産されているのでコストが安い。
そして、先ほども書いたようにポリエステルは
そもそもプラスチックなので(PETボトルと同じ素材)、
コストがそれほど上下しにくいのだ。
その反面綿は天然物なので天候や収穫量によって
コストが変動しやすい繊維でもある。
また、綿は先物取引の対象にもなるので
余計にコストが変動しやすいのだ。
綿100%の商品はこのような価格変動が
起こったとしても
ある程度利益がとれるように価格が
設定されているが、
どうしてもコストは高くなってしまう。
それをT/Cにすることで
コストは明らかに安定させられるので
販売する会社からしても安定して利益が取れるし、
消費者も余計なコストをかけずに
購入することができるのだ。
魔法の配合 65/35
ここまでお読みいただいても
恐らく多くの方の感想は「ふ~ん」であろう。
だが、それで終わってしまっては
もったいない。
実はこのT/Cには魔法の配合があるのだ。
先ほど書いたように、T/Cは綿とポリエステルの
いい点をうまく組み合わせた繊維であるが、
両者の配合率を変えると当然ながら
その性質は綿寄りになったり
ポリエステル寄りになったりする。
この両者のいいバランスをとる配合率を
作らなくてはならないが、
実はその答えがポリエステル65:綿35という
魔法の配合比なのである。
あなたがお持ちの服も一度洗濯表示のタグを
見てみてほしい。
そこに綿とポリエステルが書かれていたなら
それは恐らくT/Cであり、
その配合比は65:35になっているはずである。
私自身試したことはないが、
70:30でも50:50でもきっとダメなのだろう。
65:35という微妙な数字がまさに
T/Cの特徴を活かす魔法の配合比なのだ。
日ごろ繊維を混ぜ合わせるということを
意識して服を着ることはないと思うが、
改めて自分が着ている服がどのような
繊維の構成で作られているかを
一度見てみてもいいのではないだろうか。
あなたが今着ているものも、
誰かが作った魔法の配合によって
成り立っているのかもしれない。
そう思うと何だかワクワクするではないか。
今回の記事ではT/Cについてご紹介したが、
今後も時々このような繊維関係の小ネタを
ご紹介していこうと思う。
ぜひ今後もお付き合いいただけると嬉しい。