恥ずかしがるのは時期尚早だった話
先日とある業者の年配営業マンFさんが
商談のために私の会社に来社した。
その方は元々違う会社で働かれており、
60歳を過ぎたタイミングで同業である今の会社の社長に
誘われて転職をされたという
少し珍しいキャリアの持ち主である。
実際にお会いしてみると
60歳を超えてもバイタリティに溢れており、
年齢と経験が生み出す貫禄がプラスされて
初対面の方は少し圧倒されるほどである。
(私の部下は最初「怖い」と言っていた)
そんなFさんと新規商材について
色々と話をしていたとき、
Fさんがふとこんなことを言った。
「この商品の市場投入はまだジキソウショウだと
いう意見が社内では出ております」
Fさんが言いたい内容は理解したので
フムフムと相槌を打ちながらも。
「ジキソウショウ」という言葉が私の頭のなかで
グルグルと回っていた。
ずっと私は「時期尚早」だと思っていたのだが、
もしかするとこれまでずっと間違って
使っていたのかもしれない。
それならば恥ずかしすぎる。
私が「時期尚早ですね」などと言う度に
今回私が感じたような「?」が相手の頭に浮かび、
「あなたがその言葉を使うことがジキソウショウですね」と
心の中で思われていたかもしれない。
私は子供のころから理系教科が好きで、
その反面文系教科はあまり得意ではなかったので
正直漢字や熟語については自信がないことが多い。
それもあって何か言葉を使う時には
確実に知っている意味や感じでないと基本的には
使いたくないと思ってきた。
以前、Fさんとは別の方と面談をしている時に
「やぶさかではない」という言葉が出てきて
何だかとても日本語的で素敵だと思ったので、
商談が終わった後に「吝か(やぶさか)」とは
どういう意味でどのような使い方をするのかを調べ、
理解をしてから使い始めたこともある。
今回出てきた「ジキソウショウ」も過去に
何度も自分の口から出してきたので
一度は調べているはずなのだが、
どうやらその時に勘違いをしたまま
今に至ってしまったらしい。
とはいえ、今からそれを取り消せるわけでもないので
ひとまずFさんとの商談に集中することにし、
ノートの片隅にカタカナで「時期早尚」とメモをした。
そうして商談が終わったのだが、
ちょうどその日は色んな案件が立て込んでおり、
私はすぐに違う仕事に取り掛かることになった。
そうして私の書いたメモはノートの片隅で
眠りについた。
だが、そこから数日経過したある日。
別の業務をしている際に過去のノートを
読み返していると、
ふと先日のFさんとの面談メモに書かれた
「時期早尚」という文字を見つけた。
このままでは危うくまた何かの折に
私は性懲りもなく「時期尚早」などと
間違った使い方をしてしまうところである。
私は念のため再度調べて納得しておこうと
Googleを開き「じきそうしょう」と入力して
変換を試みたのだが、
不思議なことに変換の予測に出てこない。
だが、検索候補にこんな言葉が出ていることに
気が付いた。
もしや、私が間違っていたのではなく
Fさんが間違っていたのか。
そう思いながら恐る恐るその候補をクリックすると、
驚いたことに正しくは「時期尚早」であり、
私の認識の方が正しかったのである。
何だか安堵するとともに、
Fさんにこのことを伝えてあげないと
マズいような気がした。
Fさんほどの貫録がある方が
言葉を間違って使っていると恥をかいてしまうし、
何だか残念な印象になってしまいかねない。
だが、このことをわざわざメールでお伝えするのも
何だか気が引けてしまう。
なので、次週予定されている次回面談の際に
シレっと「時期尚早」という言葉を発して、
気づいてもらうことにした。
私としてやれることはここまでである。
次回面談でFさんが気づいてくれることを
願ってやまない週末であった。