鬼ごっこの魔力
日曜日の18:00。
いつもならば家で夕食を作っている時間に
私は息子と二人行き慣れない道を
車で走らせていた。
目的は花火を皆ですること。
息子が所属するサッカーチームの皆で
花火をしようとコーチが呼び掛けてくれたのだ。
同じ市内の中でも行ったことのない公園で
開催されるということで、
道がわからず不安を感じながら
車を走らせていた。
ほどなくすると多くの人が集まる公園を発見。
集合時間に若干遅れたことで
既に多くの人が集まっており、
功を奏したらしい。
早速車を停めると息子は公園に走っていき、
仲間たちとサッカーをし始めた。
日曜日は午前中も練習で思い切り走ったのに
そんなことを感じさせないほど
走り回る子供たち。
やはり彼らはサッカーが好きなのだ。
ふと見ると、彼らの横には別のグループが一つあった。
このイベントはサッカーチームのメンバーだけでなく
彼らの兄弟も参加していたので、
お姉ちゃんや妹などの女子たちは一区画を使って
バレーボールをして遊んでいる。
その中には中学生の女子たちが何人かいた。
中学生ぐらいになると親との付き合いが
難しくなるものだと思っていたが、
こうして弟たちのイベントに参加して
楽しんでいる様子を見ていると、
何だかホッとする気持ちになる。
そんな彼らを横目に各自持参した花火を
包装紙から外していつでも遊べる準備を整える。
そうしておよそ30分ほど経った頃だろうか。
誰かがどこからともなくスイカと棒を出してきて
スイカ割りをすることになった。
なかなかたどり着きそうでスイカにたどりつけず
惜しい状況が続き、
子供たちもキャーキャーと騒ぐ。
私はちょうど持参していたカメラで
その様子を撮影していた。
レンズ越しに切り取ったその光景は
夏全開のもののようで、
どこかに夏の終わりが漂っている気がする。
2つ目のスイカが割られた後、
ようやく周りが暗くなってきたので
本日のメインイベント、花火を始めることになった。
私は持参したカメラで子供たちの様子を撮影しつつ、
種火用のろうそくの火をこまめに点け直す役割。
最初はオドオドと花火を持っていた子供たちも
花火を持って走り回ったり
何本もまとめて持って楽しんだり
遊び方をアレンジしていく。
時々我が家でも花火をすることはあるが、
それとは比べ物にならないぐらい沢山の花火で
遊べる機会ということもあり
息子の笑顔もとても輝いていた。
暗くなったので撮影が難しいものの、
撮ってみないことにはいい写真になるかどうかは
わからないものである。
花火に向き合う子供たちを撮影すると
彼らの瞳に映る花火だけでなく、
本当に彼らの目が同じように輝いているように見えた。
しばらくそうして花火を楽しんでいると
いよいよ花火も尽きて、
そろそろお開きの流れかと思っていると、
どこからか「鬼ごっこする人手上げて」という声が
聞こえてきた。
公園は既に暗くなっているが、
その中で鬼ごっこをしようという提案らしい。
すると、驚いたことに中学生女子たちも
小学生と変わらないテンポで「はーい!」と
手をあげて参加していたのである。
もしかするとこのようなイベントに
参加してくれる時点で
彼女らは元々素直なタイプなのかもしれない。
しかし、私はこの姿を見てとても感心したし、
それと同時に鬼ごっこという遊びの
懐の広さを実感した。
鬼ごっこはとても原始的であり、
基本的に場所さえあればどこでもできる
遊びの王様のようなものであると
私は思っている。
だが、実際に鬼ごっこをした記憶は
小学生ぐらいまでで止まってしまっている。
大きくなるとなんとなく鬼ごっこをすることが
幼稚な気がして恥ずかしいと思ったのだろう。
だが、もしかすると根底では鬼ごっこで
思い切り走り回りたいという願望が
中学生や高校生の中にもあるのではないだろうか。
否。これはもしかすると大人の中にも
眠っている願望なのかもしれない。
もちろん、大人になると走ること自体に
不安を感じる人もいるであろう。
だが、何かから本能のままに逃げ回るという経験は
ある意味で鬼ごっこでしか味わえないスリルである。
鬼ごっこを定期的に開催すれば
大人も走ることに備えるようになり、
万一災害が発生した際や危険に直面した際に
走らなくてはならないシチュエーションで
その備えは大いに活きるのではないだろうか。
先ほども書いたように、鬼ごっこは
場所さえあれば何も道具を必要としない遊びである。
こんなにコスパがよく、年代問わずに遊べる遊びを
”恥ずかしい”という理由だけで放置しているのは
とてももったいないことだと
一生懸命走り回る彼らの様子を見ながら思った。
残念ながら今回は大人の参加はなかったが、
次何かの機会があれば、
親チームと子供チームで鬼ごっこ対決をしてみても
面白いかもしれない。
シンプルながら懐の広いこの遊びを
もっと大人も楽しんでみようと思った
夏の終わりであった。
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