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気遣いが裏目に出た話

昨日来社した業者の方と話をしていると
ポケットに入れた会社用携帯がブルブルと震えた。

基本的にマナーモードにしているので
相手の業者の方は気づいていない。

ほどなくして振動は止まり
私は商談のメモの端に「携帯折り返し」と書いて
そのまま面談を続けた。

それから1時間弱ほどして面談が終わり、
部屋に戻ってから携帯を見てみると
某顧客からの着信であった。

ここですぐに折り返してもよかったのだが、
もしかすると私が商談中に
メールのやり取りがあったかもしれない。

電話をしながらその内容を追いかけるのは
非常に面倒なので
まずメールの確認をしてみると
その顧客からのメールが受信箱にあった。

内容は午前に私がこの顧客に送ったメールに対する
返信であり、この内容ならば
「承知いたしました。」的な言葉だけ返信すれば
問題なさそうである。

だが、この顧客はメールを送った後に
わざわざ電話をしてきている。

ということは、メールで送った内容の後に
何か重大なアップデートがあったのかもしれない。

そう思い、先方の携帯に折り返すと
今度は先方の都合が悪いのか応答がなかった。

相手が出ないのではどうしようもないので、
私は携帯をポケットに入れて仕事をし始めた。

だが、どうにも携帯が気になってしまうのだ。

先ほども書いたように私は基本的に
職場ではマナーモードにしているので
オフィスでデスクワークをしている時なら
電話がなっても概ね気づくことができる。

だが、仕事柄現場で作業をしたり
実験をして体を動かしている時なら
バイブレーションに気付かないこともある。

しかも、仮に電話に気付いたとしても
現場のようなうるさい場所で応答すれば
相手にとっても聞き取りにくくなるので、
場所を移動しなくてはならない。

このようなことを考えると、
相手からの折り返しがいつあるかわからないのは
心理的に負担であるとともに、
その間できる仕事の幅が狭くなるという
モヤモヤが残ってしまう。

もともとこの時間には実験を計画していたのだが、
一旦それをやめて、デスクワークを進めることにした。

ところが、そこから1時間ほどしても
折り返しはなかったのである。

会社も定時になったので、権利的な事でいうならば
私はそれ以降電話に出る必要もないことになる。

だが、会社用の携帯を支給されている以上は
基本的にそれに応答することが求められる。

顧客やサプライヤーからしてみれば
相手の定時など知ったことではないからである。

結局残務を片付けて定時を少し過ぎた時間に
退社しても、折り返しはなかった。

ところがである。

それから1時間ほど経って電車に揺られているとき
ポケットに入れていた携帯が再び震えだしたのだ。

応答したいものの、電車の中なのでそれもできない。

仕方がないので、先方に移動中であるため
下り次第折り返すとSMSを送った。

それから10分ほどすると自宅の最寄り駅に
到着するのだが、
そこまで読んでいた本を私は閉じた。

なぜなら、着信があったことで頭が
完全に仕事の内容に置き換わってしまったからである。

一体何の用件での電話なのかを
グルグルと頭の中で考えながら
電車の中の時間を過ごすと
いつもよりも妙に10分間が長く感じられた。

そうして自宅の最寄り駅に到着し、
改札を出たあと私は満を持して折り返した。

2コール目ぐらいで応答する顧客。

電話が入れ違いになってしまったことを詫び、
用件を確認すると
驚いたことにメールで私に返信してくれていた内容と
何ら変わらないものだったのである。

確かにメールでは言葉足らずになる部分もあるので
その部分を補足するという意味では
全く意味のない電話ではないのかもしれないが、
今回私がメールを見た際には
特に疑問点も不明点も感じなかった。

結局目新しい内容は何もないまま、
その通話は終了した。

この顧客は一体なぜこの内容で私に電話を
かけてきたのであろうか。

この疑問が私の頭の中に一瞬で満ちた。

何度も言うように内容はメールで既に見ているし、
なんなら私はそのメールに「承知しました」と
返信までしている。

別に念押ししておくような内容もないのに
彼はなぜわざわざ電話をかけてくるという
選択肢をとったのであろうか。

仕事をしているとメールではなく
電話でやり取りをするのが好きな人に
出会うことがある。

特に年配の方に多い印象であるが、
このような方相手ならば
メールでやり取りをするよりも電話で伝えた方が
確実なので、電話をするという選択肢もあるだろう。

だが、私は決してそうではない。

何か特筆して伝えたい内容がない限り
わざわざ電話をかけることはしないし、
自分で言うのもなんだが、
メールで相手にちゃんと内容を伝えられる
語彙力は持ち合わせているという自負がある。

今回私に電話をかけてきた顧客は
私よりも若干年上だと思うが、
世代的には同じぐらいの方で
メールのやり取りを苦手としている様子はない。

そう考えていくとますます私に電話をしてきた理由が
よくわからなくなってきた。

そこでもう一度メールの内容を
読み返してみると、
私はあることに気が付いた。

そのメールは先方からの依頼事項が
色々と書かれているもので、
メールの文面からは手間をかけることへの
申し訳ない気持ちが薄っすらとにじみ出ていたのだ。

もしかすると、
顧客はこの依頼メールを私に送ったことで
私の反応を声で聞き、改めてその必要性を
私にうったえるために電話をしたのではないだろうか。

そう考えるとわざわざ電話までしてくれたのは
相手の気遣いだったのだと思わなくはない。

だが、結局その気遣いの影響で
私は当初するはずだった仕事ができず、
余計なモヤモヤを抱え、帰路の電車の中でまで
仕事のことを考えるハメになった。

これでは気遣いが一周回って迷惑に
なってしまっているではないか。

メールだけで用件を伝えるのではなく
電話もしておいた方がいいかと思うことは
私も過去に何度か経験している。

恐らく今後もそのようなシチュエーションに
遭遇することはあるだろう。

だが、その時に自分の気遣いが逆に
相手を苦しめることになる可能性は
しっかり考えておくべきだと
今回の経験で改めて感じた。

もちろんこれは相手の受け取り方次第なので、
電話をした方が適切な相手はいる。

そのような人には遠慮なく電話をすればいいが、
そうでない相手に対しては
電話は基本的に相手の足かせになる可能性が
あるものなのだ。

それはいつも心の片隅に置いておこうと思う。

ちなみにこの記事を書きながら
会社支給の携帯電話を持たされていること自体が
足かせを付けられたような状態なのかもしれないと
思い始めた。

私の場合、毎日会社支給のPCを持ち帰って
家でもメール対応をしたりするので、
まさに会社に手足を縛られている状態である。

大リーグ養成ギブスのように
この鎖が外れた時に私のスキルが劇的に
上がっていることを願うばかりである。


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