グラフをかきながら実験せよ
あなたはグラフを書けるだろうか。
こんなことを聞くと「バカにするな」と
お叱りを受けそうであるが、
案外グラフは読めても自分で書くとなると
どう書いたらいいのかわからないという人は
少なくない。
私は高校生で理系のコースに進むと決めて以来、
ずっと理系畑で生きてきた。
生産技術、品質管理、商品開発とする中で
データを取ってそれと向き合うということを
過去から何度もしてきたわけだが、
私の中で大事にしている言葉が一つある。
それは「グラフを書きながら実験をしろ」
という言葉である。
この言葉は大学時代にとある教授から
何度も教えられた言葉であった。
私が通っていたのは理系の大学なので
実験を伴う教科というのがいくつもある。
これらの実験の場合にはあらかじめ結論が見えており、
それを実験で再現させて、
考察をすることで理解を深めるというものである。
なので、多くの人は実験をしながら出た結果を
実験ノートに書き記し、
実験終了後にその結果をもとにレポートを書く形で
仕上げていた。
だが、I教授が実験の教官を受け持ったときに
冒頭にこんなことを言った。
「ほとんどの学生が実験の結果をノートに書いて
それだけで満足しているけど、
もしその結果に妙な傾向がみられたらどうするんや?」
中高生ぐらいまでの化学実験ならば
殆どセオリー通りの結果が出ていたので
確かにこのやり方でも問題なかったが、
実際大学レベルでする実験は実験結果が
セオリー通りに行かないケースがしばしば見られた。
このような結果が出た場合には、
レポートの中で考えられる要因を考察欄に書いて
これまでは受領されていた。
しかし、I教授はこのように言った。
「そもそも実験しながらグラフを書かないから、
その結果が予想通りなのかどうかをその場で
判断もできないし、
仮に予想通りでなかった場合にその場で考察すれば
実験のやり方をその場で変えて検証することもできる。
だから、実験をするときには簡易的でもいいから
必ずグラフを書きながらするようにしなさい」
大学1回生だった頃の私はこの言葉を聞いて
とても感銘を受けた。
なぜなら当時の私は実験の結果をレポートに
まとめる折になって、
色々な疑問が生まれていたからである。
そして、それは大抵グラフに実験結果を
プロットしたときに生まれた疑問であった。
I教授の教えがを守れば、この疑問を実験をしながら
即座に考えることができる。
そうすれば監督している先生方に疑問を
その場で尋ねることもできるし、
事前にレポートに書く内容も考慮しながら
実験をすることができる。
とても理にかなった考え方である。
なので、それ以降今に至るまで
実験をするときには可能な限りグラフを作って
グラフにプロットしながら実験するということを
これまで繰り返してきた。
仮にすぐにグラフを書く習慣がなかったとしたら
どうだったのかは今となってはわからないが、
個人的にはこの方法を取り入れることで
いつもロジカルな考え方を保てるようになったと
感じている。
ところがである。
このやり方で私自身は物事の理解が
深まったと感じているが、
実験の結果を伴う話を他の方とした際に
相手に上手く伝わらないという事象に
過去からしばしば遭遇することがあるのだ。
これは一体なぜか。
それは相手の頭の中にグラフがないからである。
もちろん正式に説明をする際には
こちらも資料を用意するので、
その際にグラフをつけて説明するのだが、
そもそもグラフの読み方に慣れていない方は
パッとみてもピンとこないらしく、
こちらが伝えたいことが全く相手に
伝わらないということが起こるのだ。
今ちょうど読んでいる本がこちら。
高橋洋一氏著の
「FACTをもとに日本を正しく読み解く方法」である。
この本の内容はデータに基づいて
日本で言われている貿易や外交の話、
経済の話について解説されているもので、
日本版「FACTFULNESS」と言ったところである。
(高橋洋一氏は反論されるかもしれないが)
本書の冒頭部分にグラフを書く、読むことが
FACTを適切につかむために大切だということが
書かれていた。
本書の中ではグラフを書いたり読んだりできない方を
”文系人間”のような括り方をされているが、
実際私が仕事でやり取りする方の中には
グラフをとても上手く書き、説明をする文系の方が
何人もいる。
確かにグラフを書いたり読んだりすることは
理系の人の方が慣れてはいるだろうが、
決して文系の人ができないというわけでもない。
むしろ、文系の人で適切なグラフを使うことができる人は
間違いなく仕事でもいい成果を出す人だと
私は思っている。
本書の主旨はFACTをいかに正しく読み取り、
マスコミをはじめとした世の中にあふれる情報から
色んなことを読み取っていくかということだが、
このスキルを持った人はビジネスにおいても
感覚的ではなく、グラフから適切な情報を読み取り
マネジメントしていくスキルが高い。
逆にいうならばマネジメントをする人は
グラフを書いたり読んだりする力がないと
難しいのではないかと思うほどである。
ではどうしてグラフを読み書きする力は
つけられるのだろうか。
その答えこそ、私が学生時代に教えてもらった
すぐにグラフに落としてみるということなのでは
ないだろうか。
もちろん、慣れないうちは的外れなグラフを書いたり
何も読み取れないグラフになる場合もあるだろう。
だが、なんとなくでもグラフを書いてみると
感覚的に見ていた時には見えなかったことが
必ず見えてくるものである。
何も難しいグラフを書く必要はない。
ノートの片隅に2軸のグラフを書いてみて
そこに点を打ってみるだけでも
十分に面白いデータになるはずである。
今回この本を読んで18歳の頃に
先生に教えてもらった大事なことを
改めて実感することとなった。
今日も色んなデータと向き合うであろうが、
その場でグラフを書くことを忘れずに
データと向き合っていきたいと思う。