「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」を読んで
この本が出版されたのは2006年3月。
残念ながら作者の方は2016年にお亡くなりになってしまったようですが、私が読んでいるのは2020年5月の初版第3刷。
オビに「緊急復刊!!」と書いてあるし、Amazonでのレビューも今年のものばかりなので、おそらくコロナの影響で再販されたものなんでしょう。
私がこの本を読もうと思ったきっかけは今ハマっているアメリカのドラマで主人公が「それじゃあ『腸チフスのメアリー』だ」と言ったことがきっかけでした。
なにげなく「腸チフスのメアリー」でググってみたら、このコロナの時期にぴったりな本だなと思い、ほしい物リスト→カートという流れで私の手元に届いたわけであります。
簡単に説明すると、約150年前にアメリカで実際に起こった事件の話です。
当時腸チフスはまだ致死性が高い病気だったのですが、とある学者が調べたところある女性が家政婦をした家庭で立て続けにその病気が発生していることに気が付きます。
その数、7つの家庭、22人の患者、1人の死者!
ただその当時はまだ「健康な保菌者」という概念がなかったので、健康そのものの彼女は検体の提出を拒否し、最終的には島に隔離されるという結末になり…という話です、ざっくりですが。
作者の方は哲学者だったそうですが、「歴史家として書いたのかな?」そんな使命感を感じた本でした。
この本では全体的にメアリーひいては未来になりうる第二の「チフスのメアリー」に対する優しい視線を感じます。
最後の方で作者から「君は、この小さな本を読む過程で『チフスのメアリー』という邪悪な象徴の陰に、元になった一人の女性の弱さや悲しさを、少しは感じ取ってくれただろうか」と呼びかけてきます。
そして「もし感じ取ってくれたなら、そんな君に、あと少しだけ私の願いをいっておきたい」と続きます。
「もし、あるとき、どこかで未来のメアリーが出現するようなことがあったとしても、その人も、必ず、私たちと同じ夢や感情をかかえた普通の人間なのだということを、心の片隅で忘れないでほしい」と綴っています。
この文章を書いたとき、作者の方は52歳。
その10年後62歳でこの世を去られてしまうのですが、この方が今のコロナの状況を見たらどう思うかな、と思います。
世の中には世論というものがあり、私は時として飲み込まれてしまうときがあります。
でもそんなとき波から残った小さな岩のように、せめて私だけはこの「チフスのメアリー」に思いを馳せて踏みとどまりたい、そう思わせてくれる本でした。
次回は「ひのきのぼうで戦うしかない」2月15日(月)6:30配信予定です