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H.サイモン『Sicence of Artificial』を読む

1. ドラッカーとサイモン


「社会生態学者」とは何か。
サイモンの書を開く前にドラッカーの扉を叩かせて欲しい。

ドラッカーは経済学者と呼ばれることを嫌い、自らを「社会生態学者」と名乗った。

興味深いことに、彼は社会生態学が何かを説明していない。経済学や物理学と言えばイメージしやすいが、社会生態学など誰もイメージできない。世界中のドラッカリアンが頭をひねるも、いまだ答えは出ない。

哲学にはありがちなのだ。

ティム・ブラウンはデザイン思考の「デザイン」が何かを話さないし、サラス・サラスバシーはエフェクチュエーションの「エフェクト」が何かを一切語らない。

「猫も杓子もエフェクチュエーションですね」

いつの間にかそんな風に言われるまで浸透したが、例えばこう問われたとしよう。

「すみません先生、エフェクチュエーションの『エフェクト』って何なのですか?」

「いやぁ〜〜」
「元ネタのサラスバシーが話していないので、誰も分からないのです」

こんな馬鹿正直な返答をするコンサルがいたら本物だ。大抵「5つの原則が」などと自分で消化できていない受けうりを話すだけだから殺意が湧く。

タイトルに使われるキーワードの意味すら考えねばならない。「そんな馬鹿な」と思われてしまいそうだが、意外にそんなものである。

・猫の生態。
・くじらの生態。

これなら簡単ではないか。

社会の生態学。
社会に「生態」があると言う。
ドラッカーは社会を生き物だと捉えていたわけだ。

個々の人を見ても分からないが、社会全体を見ると分かる事象がある。エミール・デュルケムは『自殺論』で、個人の話を聞いても分からない”国”に固有の自殺率があることを見出した。デュルケムの発見から社会学が始まる。

社会とは生きもので、互いに繁栄したり食い合ったりさえする。これを観察するのが社会生態学だ。「社会が生きているはずがない」と思い込んでしまうと捉えられない。

・社会のあり方は決まっている。
・社会は静的なもの。

そう考えるとH.サイモンも一切読めない。

2.  完全合理性の罠


H.サイモンは限定合理性の研究でノーベル賞を受賞した。

現在の経済政策の主流である新古典派経済学は、人は完全に合理的なものだと仮定している。もちろん現実的でない。サイモンは完全合理性を社会にとって極めて有害だとすら話す。

クラス全員の満足度をMAXにする席替えは可能か。

新古典派経済学は常にそんなことを考えている。最適な資源の配分、「パレート最適」という理想状態を追求している。

ならば「クラスの全員が完全に合理的に行動する」と仮定したとき、学校はいったいどうなってしまうだろう。

AIにシミュレーションしてもらった。


3. クラス全員の満足度をMAXにする席替えは可能か



以下は、「人気のある女子の隣の席に座る権利」を最大の報酬としたクラスのシミュレーション分析です。
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ルール

 「テスト順位・クラス貢献度・教師評価などでポイントを獲得し、毎週ポイント1位の男子が『人気女子の隣の席』を1週間占有できる」  

仮定

全員が「自己利益のみ」を追求し、羞恥心・倫理観・友情を無視する。

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シミュレーション結果

【第1段階:過剰競争の激化】

1. テストの非合理的最適化  
  - 他人の教科書を隠す・回答用紙を破るなどの「妨害行為」が日常化。  
  - 教師の監視を回避するため、ドローンを使ったカンニング技術が開発される。  

2. 教師への過剰アプローチ
  - 教師の私的SNSに「いいね」を毎日100回押すことが「評価ポイント稼ぎ」の定番に。  
  - 教師が「忖度される疲労」で休職し、代わりにAI教師が導入される事態に。  

3. 女子の隣の席の物理的争奪戦  
  - 早朝4時に登校して席を占領する「席取りチート」が出現。  
  - 人気女子の席周辺に防犯カメラと警備ボットが配置される。  

【第2段階:システムの歪み】


1. 人気女子の「商品化」
  - 男子間で「彼女の隣の席は週1,000円の価値がある」と暗黙の市場価格が形成される。
  - 女子が「自分がモノ扱いされている」と気付き、クラスをボイコット。  

2. 裏取引経済の拡大  
  - ポイントの闇売買が発生(例:掃除代行1回=50ポイント)。  
  - 暴力を背景にした「ポイント強請集団」が暗躍し、教室が無法地帯となる。  

3. 学習環境の崩壊  
  - 授業中に隣の席を巡る「イス引きずり合い」が多発。  
  -「席争い」にリソースを奪われ、全員の学力が平均30%低下。  

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【最終段階:パラドックスの発生】

1.報酬の無価値化
  - 人気女子が精神的負荷で転校し、「隣の席」そのものが消滅。  
  - 制度の目的が失われ、ポイント制度は「虚構のゲーム」と化す。  

2.全員敗北の均衡
  - 過酷な競争で心身を病んだ男子たちが「もうどうでもいい」と無気力化する。  
  - 教室が廃墟のような沈黙に包まれ、教師も授業を放棄。  

3. パレート最適の不可能性  
  - 1人の利益が他の全員の損失を生む構造により、「最適な富の分配」が永久に達成不能に。  

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・現実世界と対比してみましょう。

実際のクラスでは以下の「非合理的要素」が暴走を防いでいます。  

感情的要因
 「人気女子を傷つけたくない」という罪悪感。  
 「目立ちすぎると嫌われる」という社会的羞恥心。  

慣習的調整
 「週替わりで隣を変える」という暗黙のルールや、「先生が適当に席を決める」といういい加減さの存在。  

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・以下、授業で討論してみてください。

1. 「なぜ現実ではこのシミュレーション通りにならないのだろうか?」  
  → 限定合理性・共感性・社会規範の役割を議論してください。  

2. 「パレート最適な席替えルールをデザインせよ」
  → 投票制度・抽選制・ローテーション制のメリット/デメリットを分析。  

3. 「人気女子の立場を守るには?」
  → ゲーム理論と倫理観のバランスを考えてみてください。  

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こう考えると「完全合理性を前提とする経済モデルの限界」と「人間の複雑さ」を浮き彫りにしますね。



自由主義経済の縮図を見るようだ。

完全合理性の邪悪さについて世間ではほとんど議論されていないが、H.サイモンは見事に喝破した。

流石の天才である。

友人、橋爪淳さんの絵

橋爪さんのHPは以下です。

ご覧くださいまして、誠にありがとうございます!
めっちゃ嬉しいです😃

起業家研究所・学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)

下のリンクで拙著『人は幽霊を信じられるか、信じられないかで決まる』の前書きを全文公開させていただきました。

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Hayato  Matsui『逆転人生』共著者
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