介護しない介護
今回は千葉県の旭市にある特別養護老人ホーム心楽にご訪問させていただきました。副施設長であり事務長の加瀬さんに1時間以上たっぷりご説明していただきました。ありがとうございます!
旭というまちには初めて行きましたが、普段川崎という都会に住んでいる私からするととにかく田舎。周り一面は田んぼだらけ。
医療・介護事業や地域創生・まちづくりに関心がある人にとって参考になる情報をお届けできれば幸いです。
到着すると目の前にはすべり台🛝
これが本当に特別養護老人ホームか?と目を疑う光景だった。
イオンモールの中に位置している心楽。窓が多くすべり台が目の前にどんと構えるこの施設を初めて目の前にした私は、本当に要介護3以上の方が入る特別養護老人ホームなのか?ととても疑ってしまった。
実際は、すべり台は利用者さんのお孫さんやイオンモールに集まっている地元の子供の遊び場所として利用されていた。
私が訪問した12月13日はオープンしてまだ2週間たっていなかったが、既にご利用者も定員80名に対して20人近く入っており、既に応募も殺到しているとのことだった。今では特別養護老人ホームでも空きベッドが出てきてしまっているというこの時代にこの威力はすごい。
商業施設と共にある介護施設
私が1番驚いたのは介護施設が単独で存在しているのではなく、ほぼ商業施設(イオンモール)の中にあること。最近医療や介護事業者の人たちにとってケアをするだけではなく、地域活動が大事なんだ!地域の人たちと交流することが大事なんだ!といつの間にかやらなければいけない義務感に追われているのではないかと感じる。地域活動をしている人が偉い、していない人は良くない。という捉え方をされているケースも多いように感じる。
どの現場でも現場は必死に頑張っている。
そんな中で、この商業施設の中にある介護施設というのはとっても可能性を感じた。例えばこんな光景を見た。
自ら買い物に行き、品を選びお会計をして、自分で帰ってくる
これは普通に生きる私たちにとっては当たり前のことなのかもしれない。しかし、特別養護老人ホームにいる高齢者の方々にとってその普通はなく、そんな活動は例え介護者がいたとしてもリスクだとされて絶対に止められる。
しかし、ここでは許容される。
私が見た光景だ。そんなゆっくり歩くのか?!と思うくらいゆったり歩く90歳近くのおばーちゃんは3分くらい歩いて併設されているイオンモールへ買い物へ行き帰ってきた。
杖は使うし、歩くのも遅い。たまにぼーっとすることもある。
けど車イスは使っていないし、手すりが豊富にあるわけではない。
「地域活動!」として何かを盛大に介護施設側がやっていたわけでもない。
普段は施設というブラックボックスにいる高齢者の人たちが買い物という立派な社会活動に参加し、当たり前のようにその活動に地域の人たちがなにか声をかけるわけでもないが、同じ社会活動をして共存している。
これこそが、あるべき地域活動なのではないかと思えた。
もう一度言うが、要介護3以上の方だった。実際に入居前はあまり元気がなく、家族に迷惑をかけたくないと家に引きこもっていたという。
これを見た私は日常と切り離そうとしていた今までの介護のあり方をとても考えさせられた。リスクとはなんなのか。事前に問題行動を予測して解決しておくことが本当に目の前の人にとってよいことなのか。
正解はないが、自分なりの正解を求めていきたいと思えたシーンだった。
これが実現できた背景には自治体・病院・地域住民・民間事業者・建設/設計事務所の全ての人が一体となったみらいあさひ協議会の方々の存在がある。
機会があれば同施設内にある多世代交流施設おひさまテラスのことや共同した背景も聞いてみたい。
家族でも家族以外でも利用可能
直接その光景を見たわけではないが、スーパーやレストランが併設されているからこそ、家族が面会をあまり重いものとして捉えずふらっとくることができたりするだろう。さらに遊ぶ場として子どもが遊ぶために来たら気づいたら知り合いのおじさんおばさんが増えていて、人と人との繋がりが自然な形で生まれていきながら、身近な人の最期の生き様を感じながら、困った人がいたら話を聞いたほうがいいんだという教育的な役割を担う場としてもとても可能性を感じている。
介護における主体は誰か?
ケアの現場では、基本的にケアの主体は介護事業者になりやすい。
しかし、心楽にはケアの主体が利用者さんになりやすい仕組みが多くある。
フロアの真ん中にあるみんなでつくることができる低い台所。
車イスで入る自動入浴ではない、濡れても滑りにくい床の天然木のお風呂。
お昼ご飯は毎食かまどで炊いたごはんだから、薪割りをして薪を持ってきて火を出して、必ず誰かが集まるようになっているかまど。
あえて、レトロな家具を置いてどこか馴染みのある空間を作り出す施設内。
今紹介したように実際に行ってみて確かに魅力的な居場所がたくさんあった。しかし、同時に思ったのはこんな素敵な居場所の価値を定量的に出すことはできるだろうか?ということ。インパクト投資の話に近いのかもしれない。かなり難しいだろう。
非効率で生まれるコミュニケーションや場所ごとに発生する定性的な価値は実際に現場を見続けないとわからないことが多い。正直、視察や記事を見ただけで価値を分かり切った気になるのも危険信号な気がしている。しかし、こういう場があることが少しでも広まればと思って書かさせてもらった。
ただ、冒頭も言ったようにこういうキラキラした施設が正解で閉ざされた空間がダメだと言っているわけではない。あくまで選択肢として誰もが自由に選べる権利があるべきだということを伝えたい。
そのためにはこういう事例を増やす必要があると思うが、新規参入者が1つ目の事業でこの規模感でできるかと言われると多方面から考えて難しい。
場所に関しては空き家や廃校を活用してみたり、民家を利用したホームホスピスや託老所(デイサービス)のあり方を考えてみることが新規参入者にとっては大事な視点になりそうだ。
良いも悪いも色んな面から人と関わりたい
こんな素敵な思いをもったスタッフたちと全国各地の施設から介護指導のオファーが殺到しているケア・アドバイスの第一人者であるRX組代表の青山さんがアドバイザーとして関わっている心楽は今はまだ立ち上がって1ヶ月でこれからの施設だが、日本や世界の介護業界にとって先進的な事例になるべき施設の1つだと思っている。
これからも「ケア」や「まち」について現場に実際に行き、感じた学生視点・医療介護従事者ではない視点をお届けします🍢