宮本輝「錦繍」を読んで
宮本輝さんの「流転の海」シリーズを読み始めたはずが気がつくと、2部の途中で積読になっていました。6月ごろのことでした。
時は流れ、気がつけば金木犀の甘い香りが舞い踊る10月。流転の海の続きを読もうにもなんとなく気が乗りません。他に何か読もうかなと書店で目についたのが同じく宮本輝さんの「錦繍」でした。
錦繍は学生の頃に一度読んだことがあったのですが、手紙のやり取りで進む小説であること、内容が大変面白かった覚えがあること、しか覚えておらず、内容についての記憶は消え失せていました。
「久しぶりに読んでみよう」
そう思ったのは本書の内容についての記憶がなかったことに加え、
SNSのメッセージでやり取りが進んでいく「ルビンの壺が割れた」という小説があるのですが、こちらの終わり方のどんでん返しようがあまりに「そんな終わり方???」と後味の悪いもので、その読後感を払拭したかったためかもしれません。
あらすじ
小説はこんな手紙の書き出しから始まります。
手紙の送り主である勝沼亜紀は、ある事件が原因で離婚した元夫の有馬靖明に十年の歳月を経て偶然再会します。
そこから始まった手紙のやり取り。夫婦の頃には語り合うことができなかった思いと、これまでの互いの10年を手紙を通して伝えあいます。
感想
錦繍という言葉から何をイメージするでしょうか?
私は錦繍という単語自体知らず、あまりイメージが浮かばなかったのですが、とにかく美しいものだろうと思っていました。
調べてみると以下のような意味があるようです。
本書では、ドッコ沼から見渡せる紅葉に対して、手紙の文章に対して、互いの手紙が織りなす物語対して、などあらゆる部分に錦繍という言葉が当てはまります。
ドッコ沼というところは知らなかったのですが、画像でみても紅葉の美しさが伝わります。
手紙のやり取りの中に映る美しさを感じていると、美しいものは必ずしも美しいものから生み出されるわけではなく、むしろそういう美しさの方が魅力を持ったものなのかもしれない、と思ってしまいました。
往復書簡形式の小説なので、非常に読みやすかったです。(今の時代に手紙だけでやり取りが続くというのはあまり考えられませんね)ある出来事に対する手紙を書いた本人の感情をストレートに感じられてように思います。
浮気あり、心中ありなのに、不思議と読後感が悪くありませんでした。そのような一般的に良くない出来事も含めて人生とは何なのか?という問いに繋げられていたからかもしれません。
夫婦それぞれが、それぞれなりに何故自分はこうなってしまったのか、という答えの無い問いに手紙を通して答えをだそうと藻掻き、互いの答えを参考に未来に向かって進んでいっていたように思います。
終わりに
私も時々手紙を書くことがあります。最近は書店などで売っているレターセットの紙1~2枚程度の内容が多いですが、それでも書くときは相手との様々な記憶が蘇ってきます。
手紙って相手に向けて書くものではあるのですが、その書いている間は自分の中で何度も自分自身とやり取りしています。この自分の中でのやり取りというのが、自分の人生を整理している時間でもあって、意外と貴重な時間のように思います。
錦繍を読んだことだし、次は「流転の海」シリーズを再会しようかなと考えています。2部の内容が地元に戻っての生活を描いたもので、1部と比べてあまり惹かれないので、ここはなんとか乗り越えたいです。3部からは、また大阪に出てきて事業を始めたりして人生を格闘するようなので楽しみです。