ドライのHさん
最近職場でちょっと嬉しいことがある。同じ関西弁を話す人が、職員に居るのだ。
ドライ(乾いた食品のこと。グロサリーとも言う)担当のHさん。以前いらしたOさんの後任として転勤して来られたらしい。
「らしい」というのは私が人事異動の詳細を知らないからである。部門が同じならすぐに情報が伝わってくるのだが、特に食品の人は同じ店に居ても疎遠になりがちだ。入社以来一年半になるが、未だに会話したことのない人も多い。
それでも彼が関西弁の使い手であることがわかるのは、インカムのお陰である。
私も前の勤務先ではドライにいたので、担当者の話の内容は大体推測がつく。
「もち米の入荷は何時ごろですか?」
と言う問い合わせが入れば多分二時頃やろなあ、と思うし、
「○○のおまけのクリアファイルはまだありますか?」
と言う問い合わせが食品レジから入ればああ、もう売り場になければないわ、と思う、と言った具合である。
こういう時、脳内の私の考えは全て関西弁仕様になっているのだが、Hさんが全くその通りに返事するのでおかしくなってしまう。
「多分、二時頃になりますー」
「売り場になければもうありませーん」
といった具合である。この場合、『多分』はアクセントが『ブ』についているし、『二時頃』はほぼ平坦な話し方になる。『なります』は『ナ』が低くなり、語尾に向かって上がっていく。『売り場』も高めの平坦、『なければ』も『ナ』だけ低い。
関西弁独特のイントネーションを言葉で書き表すのは非常に難しいが、ざっとこんな感じである。
先日、こんなインカムが入ってきた。
「あの・・・ドライ担当の方にお尋ねします。一週間前に買ったソースを返品して、代わりに○○という商品を買いたい、と仰るお客様が来られているんですが・・・ソース、新品ではあるんですが外見がちょっと・・・包装のビニールがよれて破れかかっているんですが・・・受け付けてよろしいでしょうか?」
サービスカウンターのOさんの声だ。ソースぐらい何かに使わんかい、と独り言でツッコミを入れていると、Hさんの関西弁が入ってきた。
「ドライ、Hです。封は開いてないんですね?」
ううん、難しいところだ。返品交換は一週間以内だから、ギリギリ可能と言えば可能である。しかし問題ない状態の返品なら、Oさんはインカムを入れなかっただろう。『ちょっとヤバそう』だから問い合わせたに違いない。Hさんどうするだろう?
「はい・・・ですが、再販可能かどうか、こちらでは判断しかねています。見て頂いてご判断をお願いしたいです」
相当変な状態なんだろうな、と想像していると、
「わっかりましたあ!今からそちらに向かいますウ!」
と言うHさんの元気な関西弁が入った。
「よろしくお願いします!」
こういう時、威勢が良い返事をもらえるのは有難い。Oさんはホッとした様子である。こういうお客様、困るだろうなあ。気持ちがよくわかる。
担当者の返事次第で、受け付けたこちらの気持ちも変わってくる。渋々という感じを露わにした返事しかもらえなければ、自分が悪いことをしたわけでもないのに、気持ちが塞いでしまう。「私が悪いんと違うわい」という怒りが湧いてしまうこともある。
Hさんのように明るく「任せておけ!」という感じで返事してもらえれば、例え無理難題を突き付けてくるお客様にでも「担当者が参りますので、しばらくお待ち下さい」と笑顔で対応することが出来る。心強い。
私の場合は更に、それが関西弁だと余計に嬉しくなってしまう。
ソースのお客様がその後どうなったのか、は知らない。多分Hさんがちゃんと対応されたんだろう。Oさんもホッとされたと思う。
日々色んな想定外のお客様がやってくる接客業には相応の大変さが常に伴うが、それ故の面白さもある。面白がれる心の余裕は、職員同士の思いやりから生まれているのだと思う。