在間 ミツル
多動、整頓ベタ、デベソ、異常な集中力、の夫とのすっとこどっこいな日常です。
私の心に響いた素敵な記事。笑いあり、涙あり、感動あり。忖度なし、下心なし、計算なしで私が読み返したくなる作品ばかりです。
愛するクラリネットとの関わりあれこれを綴りました。
私の出会った個性的で人間味溢れる先生方の思い出です
関東に住む関西人の感じた事を綴りました。
ちょっと前まで、私は夢なんて持っていなかった。この歳で夢を語るなんて、バカげたことだと思っていた。そしてどうやって死にゆくか、いかにこの世に未練なく、きれいさっぱり自らの生きた恥ずかしい痕跡を消すか、そんなことばかり考えていた。 世の中は怖くて厳しいもので、生きることは辛く苦しいもの。他人は先ず警戒し、おそれ、避けるべきもの。そんな風に感じていた。 この世は限りなくグレーで、自分はその中で辛うじて生存を許されている存在、ぼんやりとだが、そんな気がしていた。 上手く行かないこ
吹奏楽団に所属していると、定期演奏会の三、四カ月くらい前には『チラシ挟み』という業務?が発生する。これは自分達の演奏会のチラシを、よその楽団の演奏会のプログラムなどに挟ませてもらう作業のことである。 他の団の演奏会の情報が入ると、団長などから『チラシを入れさせてもらえないか』と問い合わせをする。 OKであれば先方から『いついつに何百部持って、何人で来て下さい』という連絡が入る。 言われた時間に言われた場所に、言われた人数で向かう。 普通は演奏会開催当日の朝か、前日に行われるこ
私の勤めているスーパーは、何年か前にとある流通大手の完全子会社となった。傘下にある大手激安ディスカウントストアの商品が入ってくるようになったし、レジも統一されて、ほぼ同じ仕様になった。 売れ行きは好調で、子会社化する前よりも上向きらしい。 お得感があってぐんと安く、若者層をターゲットにした商品が増えたおかげだろう。今までは完全に『家庭の主婦層』しか相手にしていなかったのに、対象が若い顧客に拡がったことは、売り上げに大きく貢献していると思う。 このディスカウントストアに対する
子供の頃、父方の祖母と家族揃って、天橋立に日帰りで旅行したことがある。 小学校低学年くらいだったので、あまりはっきりとした記憶がないのだが、松が植わっている長い海岸線をずうっと歩いたように思う。 日頃から徒歩通学だったし、毎日遊び歩いていたから、歩き疲れたとは感じなかった。父と母と妹が先に一緒に歩き、私と祖母がその後ろを、少し遅れてついていっていた。 父と母が何か喋って笑いあっているのが、後ろにいる私と祖母から見えた。 その時、祖母が目を細めて、 「お父さんとお母さんは、いい
先日、事務所の掲示板に『お知らせ』と題した紙が貼ってあったので、何かなと思って読んでみると、店に一台こっきりになっていた公衆電話が撤去されるということが書いてあった。 とうとうか、と思った。 私がこの店に来た四年前は、二階に一台、一階に三台、計四台の公衆電話があった。二階はエレベーターの前に、一階は三つある出入口それぞれに置かれていた。 入社したての頃は、『場所のお尋ねがよくある館内施設』として場所を教えられ、実際にどこにあるかを確認するようにも言われたものだった。 確かに初
私の親の年代の方々には、バナナをこよなく愛する人が多いように思う。 私の両親はそうでもないが、夫の母はバナナが大好物である。 『買い物に行ってきて欲しい』と頼まれた時など、 「お母さん、何か絶対買ってきて欲しいものありますか?」 と訊くと、毎回必ずと言って良いほど 「バナナ買うてきといてんか」 と頼まれる。 独り暮らしだし、ヘルパーさんも週二回買い物に行ってくれるし、そんなに量は要らないだろうと思って 「一本で売ってるやつで良いですか?」 と訊くと、 「いや、一房。じきにな
私が練習の為に利用させてもらっているカラオケには、四人の女性従業員が居る。といっても私が行く曜日と時間帯は概ね決まっているので、他の時間帯の従業員のことは知らない。この四人が二人ずつ、毎回違った組み合わせで在店している。 皆さん、とてもいい人ばかりで有難い。おかげさまで、いつも快適に使わせて頂いている。 リーダー?のNさんは、三十代後半から四十代といったところだろう。細いつり目にワンレングスの髪が良く似合う、色白美人である。 二階の受付で呼び出しボタンを押すと、いつも 「は
私が生まれて初めて飲んだカクテルは、ピンクレディーだった。 名前の通り、可愛らしい薄いピンク色をしたそのカクテルを口にした時は、自分がちょっと大人の女になったような気がしたものだった。 味が美味しかったのは勿論だが、何より飲んだ時の高揚感が気に入った。それからというもの、飲みに行けば必ずと言って良いほど、カクテルを注文した。 といっても私の若い頃は、今のように居酒屋に当たり前のようにカクテルメニューがある訳ではなかった。だから私は所謂『バー』に行きたかったので、当時付き合って
世の中、無理は通らない。 無理を通せば道理は必ず引っ込む。引っ込んだ道理はどこかでちゃんと表に出てくるように、世の中の仕組みはなっている。 例えばちょっとくらい、ちょっとくらい、と身体に無理をさせながら頑張って仕事をやり遂げても、そのしわ寄せはちゃんと心身に出てくるようになっている。日々のキチンとしたメンテナンスを怠れば、身体も心もいつか悲鳴をあげるのは、分かり切ったことである。 大勢の人が『それはやめた方が良いんじゃないか』ということを、『いや、良いんだこのくらい、大丈夫だ
今年中に初めてパパになる知り合いがいる。結婚四年目にして授かった命の誕生に、当人たちは勿論、両家の両親も今か今かとその日を待っているそうだ。 私なんぞは、既にその両親の方が近い年齢になってしまった。微笑ましいと同時に、そういう時期もあったなあ、と懐かしい思いで、他人事ながら密かに楽しみにしている。 最近の産婦人科はどこもそうなのか、彼は定期的に『父親学級』などに参加し、オムツ交換の方法、沐浴の仕方、等についてレクチャーを受けているらしい。 男女が同じように働き、子育てをする
毎週金曜日の朝は、ベテラン社員Yさんとの勤務である。 雨がしとしと降ってうすら寒い所為か、特売日だというのに客足はまばらだ。 「おはよー。出足は良くないねえ」 出勤してきたYさんも苦笑いしている。 Yさんはいつも、二階にある事務所のパソコンで売り上げをチェックしてから、一階の売り場に降りてくる。売り上げが高ければ忙しいだろうと察して、少し早めの時間に来てくれる。 しかし今日はヒマそうだと思ったのか、ゆっくり在庫の検品をしてから売り場にやってきた。 机の引き出しに入っているM
先週の出来事である。 十時少し前頃だったと思う。一人の男性が白杖を突きながら、私のいるレジの前を通過していった。 三十代前半といったところか。かなり濃いサングラスをかけている。若いからか、結構早足だ。 店内では白杖を突いて買い物をしている方はあまり見かけない。お見掛けすることは稀にあるが、大抵付き添いの方が一緒である。 だからこんな風にたった一人でご来店されると、とても目立つ。つい目で追ってしまった。 凝視してしまった理由は他にもある。 私のいるレジは、正面入り口と従業員通
昨日の夜、母からLINEがきた。 『父母の墓参りに行ってきました。途中の電車で腰がちょっと痛いなあ、と思っていたら、外人さんが席を譲ってくれはりました。有難かった。でも自分の年齢を感じました。もう八十やもんねえ』 という内容だった。 『ラッキーやん!外人さん、グッジョブ!』 と返して、拍手喝采しているスタンプをオマケに付けておいた。 母に対するこの外人さんの行動は、最近の京都の外国人観光客にありがちなものである。 私はよく公共交通機関を利用するのだが、年配の客が乗車してこよ
先日、ニュースを観ていたら、 『最近は年齢問わず、男性の間で美容への感心が高まっており、男性用の化粧水やパック等の売り上げが伸びてきている』 という話題を取り上げていた。 映像をみていると、(サクラも何人かは居るかも知れないが)皆さんなかなか熱心にコスメ選びをなさっておられて、ちょっとびっくりしてしまった。 息子の年代が今の夫の年齢くらいになる頃には、こういうのがきっと常識になっていくのかもなあ、と思っていると、 「オレもやろかな」 ぼそっと夫が言う。ああ、またか、と驚きもし
一昨日の晩、発熱した。 なんとなく身体がだるいなあ、喉も少し痛いような、とは思っていたのだが、軽い風邪気味なんだろう、となめてかかっていた。こんな高い熱が出るとは思っておらず、ちょっと意外だった。 夫は姑の入所の為に関西に行っているので、不在である。ついでにかの地で開催されるコンサートに行くのだ、と言って土曜日から出かけていった。 私としては昼食と夕飯の支度も不要で、洗濯物も少なく、非常に有難かったのだが、折角の『自由時間』を、ずっと寝ている羽目になってしまった。 とても残
今日、姑が老健施設に入る。今回も三ヶ月の期間限定だ。もう四度目の入所である。 最初の入所の際は『私はそんな姥捨て山にお世話になるような、情けない老人ではない』と鼻息荒く抵抗し、姉も夫も随分手を焼いたものだったが、回を重ねるごとにその勢いは少しずつ影を潜めていった。 初めて老健から退所してきた日、家に入った姑は大きく息をついて、 「ああ、やっぱり家はエエなあ!不便も多いし、ご飯の準備も全部自分でせなあかんけど、自分の家は遠慮がのうてエエわ!」 と心から嬉しそうに言っていた。