なぜそうなる

私はスリッパをすぐにダメにしてしまう。大抵は左足の先端が破れて指が出てきてしまうのだ。
良くもって三か月、酷いと一週間で昇天してしまう。百均のだろうが百貨店で購入したものであろうが、関係ない。だから百パーセント私自身の責任だろう。
仕事に行く以外はほぼ家に居り、スリッパを履く時間が長いからだとは思うが、世の中の主婦全てがこんな風にスリッパを突き破るわけではないだろう。装着時間の長さは少しは関係するかも知れないが、あまり大きな影響はないと思われる。
では何が原因なのだろう。

足の形には個人差がある。大きく分けるとエジプト型とギリシャ型、スクエア型の三タイプになるそうだ。二か月に一度、足のメンテナンスをして下さるKさんに教えて貰った。
日本人の八割がそうだというエジプト型は親指が一番長く、小指に向かって短くなっていくタイプ。ギリシャ型は一番長いのが人差し指。スクエア型は全部の指の長さがほぼ同じタイプである。
私はエジプト型だ。スリッパが突き抜けるのはいつも人差し指の部分であるから、ギリシャ型だというならそうか、足の形のせいか、と思う。が、これも関係なさそうだ。

夫には
「お前の履き方が悪いからや」
と言われる。
土踏まずの部分をスリッパにフィットさせることが出来ず、足全体が前のめりに入ってしまう。家にいる時は大抵バタバタと階段を昇り降りしたり、洗濯機、トイレ、台所、と慌ただしく場所を移動することが多い。ついついつま先を必要以上にスリッパにフィットさせてしまう。そうでないとスリッパが脱げそうで落ち着かないからだ。
こうして踵の部分はほぼ新品なのに、つま先の抜けた哀れなスリッパが出来上がる。

これは私の足の指が地面をとらえる力がとても弱いことを示している。
正しい歩き方と言うのはこうだ。まずつま先を天に向け踵を地面に着ける。次につま先を徐々に下におろし、最後は足全体を地面に着ける。そして踵を上げると同時に指で地面を蹴る。
Kさんに出会うまで、私にはこの歩き方が出来ていなかった。殆ど踵を使わず、足指の付け根部分に近い足裏の上の方の部分を地面に着地させ、そこを使って地面を蹴っていた。勿論踵と足指の出番はない。
結果足裏には硬いタコができ、足の痛みに悩まされることになってしまった。

Kさんによる歩き方の指導と矯正靴の日常的な使用によって、私の足は今ほぼ健康に戻りつつある。が、家の中ではうっかり気を抜いてしまい、足全体がどんどん前にのめっていっているようだ。スリッパの傷み方がそれを如実に示している。
悔しいけれど夫の言う通りだ。
ちょっとだけ抗議することが許されるなら、スリッパには踵をホールドする役割がついていない為、無意識のうちに脱げないようにしようとして必要以上につま先をフィットさせようとしてしまうのだと思う。私がミュールを履くとつま先部分から足指がはみ出てしまい、踵部分が余るようになるのだが、同じ理由だろう。

多分踵のある室内履きを履けば『つま先突き抜け問題』は解決するのだろうが、私はこのタイプが苦手である。さっと履けないしさっと脱げないからだ。最近は少し踵部分が高くなったものも売られており、私と同じ悩みの人がいるんだろうかと嬉しくなって買って試してみたが、結果は同じだった。どうも私は踵がしっかりホールドされないと無意識に不安を覚えるようだ。
この先も私の履くスリッパは、非常に短いサイクルで買い替えることになりそうである。

今愛用している二〇リの二百九十円のボアスリッパはとても履き心地が良くて気に入っているのだが、買って二か月経つ現在、左足の人差し指の部分がやっぱり怪しくなってきている。はああ、また買い替えだ。
歩き方の改善が家の中でも必要とは、と天を仰ぎたくなっている。